インタビュー

子どもの貧困

虐待・ネグレクト

僕は、今の時代こそ居場所が必要だと思う ── キッズドア最前線を辿る

東京都心エリア、それは高層ビルが立ち並ぶ、裕福なエリアとして知られる場所。しかし、その裏側には圧倒的な格差が存在していた。

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現在、東京・足立区で経済的に厳しい家庭の子どもが利用する居場所型学習会(足立区から委託を受けて実施)の責任者をしながら、足立区内の他の様々な事業を統括している安達空良(あだち そら)。ほぼ毎日子ども達と関わり、第一線で支援を続ける安達が体験した『キッズドアの最前線』を辿る。

※内容は取材当時(2024年3月時点)のものでプライバシー保護のため一部加工・編集

安達 空良 
東京都足立区で居場所型学習会の責任者等を担当。大学では教育を専攻し、学生時代から、他の団体や行政機関などで子どもを支援するボランティアやアルバイトを多数経験。教員を目指していたが、今すぐ大変な子ども達にアプローチしてより多くの子ども達に支援を届けたいと考え、2021年キッズドアへ入職。

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ものすごい格差に衝撃を受けた1年目

─ 困窮家庭の存在がイメージしにくい東京都心

新人として都心エリアの学習支援を担当することになった安達は、学生時代に学習支援の経験があることから、問題なく仕事に取り掛かれると思っていた。だがその前に、気になることがあった。

「そもそも都心エリアには支援を必要としている子はいるのだろうか?」

都心エリアは経済的に恵まれた家庭が多いイメージがあるが、実は困窮家庭が存在していることを安達はだんだんと理解していく。

「都心エリアは、経済的に困窮している家庭の存在がわかりにくいかもしれません」

マンションのようなきれいな外観でも実は低所得者のための都営住宅だったり、都心の人気の観光スポットにも都営住宅があったりするからだ。

これまで自分がやってきたことだけでは足りないということを痛感

「経済的に厳しい状況の家庭と経済的に余裕がある家庭との間にもの凄い格差があって、その格差に打ちひしがれている子ども達の様子にとても衝撃を受けました」

安達の目に映る子ども達の現実。それは、他の自治体とは異なる圧倒的な格差だった。

「これまで自分がやってきたことだけでは足りない、と痛感した1年目でした」

都心エリアで暮らす経済的に苦しい家庭の子ども達が感じる大きなギャップ。どんなギャップを感じているのか、その実態を安達は知っていくことになる。

─ 何気ない普段の生活にある圧倒的な格差

「都心エリアの場合は周りの子はみんな小学校受験や中学受験をしているので、自分が受験できないことに大きなギャップを感じます。また、最近人気があるファストファッションでも、都心エリアでは見劣りすると感じてしまうようです」

子ども達の日常は、経済的な格差が色濃く反映されている。

「夏休み明けの思い出話では、周りの子は海外旅行の話や別荘に行った話で盛り上がるわけです」

“話の輪に入れなかった” “自分にはよくわからない世界” という子ども達の声は、疎外感や絶望感の現れだった。

「何気ない普段の生活の中から格差を感じとってしまうことが多く、その格差がものすごく大きいからこそ経済的に厳しい家庭の子ども達はより大きく打ちひしがれてしまうのです」

子ども達の心に寄り添うこと。安達はその大切さを噛み締めながら、彼らの声に耳を傾ける。他者と比較して感じる辛さや、同じことができない悔しさを受け止めて傾聴することが大前提だ。

「でも、傾聴するだけでは相談をしてくれた根幹の部分は解決されていないと感じました。その辛い気持ちを少しでも緩和できないだろうかと考え、クリスマス会などの季節ごとのイベントを開催したり、ボードゲームを使った関わりをしました」

それは学習会の中でできる体験の場となり、楽しそうな表情を浮かべる子ども達の姿を見ることができた。

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僕は、今の時代こそ居場所が必要だと思う

足立区に根ざした活動に取り組む日々

「今は、足立区の方で居場所型学習会の責任者をしています」

現代社会において、居場所は何よりも大切なものとされる。その居場所の責任者として、また足立区の様々な事業を統括する者として、日々奮闘する安達。

「この居場所に通う子ども達の多くは、保護者との関係や学校の友人関係でトラブルを抱えていたり、あるいは発達や精神面で課題を抱えていたり……」

安達が関わる子ども達は経済的な困難だけでなく、家庭内の問題や心の問題を抱えている。

「経済的な困難だけでは語れない難しさや生きづらさを抱えている子達が多いと思います」

─ 週6日会うから見えてくることがある


接する頻度が変われば、見えてくるものも変わる。安達の言葉に、その意味が垣間見える。

「もし週に1回ぐらいしかその子達に会えなかったら、見えないことがあるかもしれないです」

子ども達が抱える課題の様々な背景。それを見抜くには一緒に過ごす時間の長さと、より強い信頼関係が必要だと言う。

「居場所型学習会では最大週に6日間開催していて、何度も会うことができるのでより強固な信頼関係を築くことができます」

より多くの時間を子ども達と共に過ごすことができるから、彼らの心に秘められた悩みや困りごとが明らかになる。

「些細な会話の中からも、その子を取りまく課題を発見するようなことにも繋がると感じています」

─ 居場所は子ども達に手を差し伸べられる場所

安達は、居場所の重要性を強調する。

「僕は、今の時代こそ居場所が必要だと思ってます。居場所では、自分を認めてくれる大人がいたり、困ったときに一緒に考えてくれる同年代の子ども達と出会うことができます」

安達が目指すのは、子ども達が自分の気持ちや困りごとを素直に表現できる場所。そして、そこで得られる気づきや支えが、彼らの自立や成長を促すのだ。

「今の時代は、経済的に大変でも、大変じゃなくても、何かそういった手を差し伸べられるような場所がたくさんあるといいなと思っています」

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「人と一緒にご飯を食べるのは5年ぶり」は信じられなかった

─ みんなと一緒にご飯を食べる経験も大事にしたい

安達が担当する居場所型学習会では、食事の提供を行っているのが特徴だ。

「保護者の方が食事を用意できなかったり、自宅だとひとりで食べる個食が多いので、他の子達みんなと一緒にご飯を食べる経験も大事にしようと思っています」

食材の調達には、寄付や地域の支援が欠かせない。

「お米やレトルト食品といった食材は、ご寄付をいただいたり、自分達でなんとか調達してやっています」

しかし、調理に関しては、時には手配が難しいこともある。

「調理するのは可能な限り私達でできればと思うんですけれど、どうしても手配が難しいときもあります。そういうときは地域のボランティアの方にご協力いただいています」

これまで料理をした経験が全くないというボランティアの方でも、これから料理を始めてみようという人がいれば、活動に巻き込んで一緒に料理してもらうこともあったという。

─ 夕食を共にすることで分かることがある

「『この子は体の線は細いけど、結構よく食べるな』というところが見えると、『もしかしたら、1日3食とか取れてないんじゃないかな…』とかいう発見にも繋がります」

夕食の時間、安達は子ども達の言動の中に様々な発見をする。食事中の子どもの様子には、その子の背景や状況を知る手がかりがある。

『人と一緒にご飯食べるのは5年ぶり』という話が出たときもあります。それって普通はあんまり信じられないじゃないですか!

家庭でも親が仕事で忙しくて一緒に食べられないとか、学校でも、コロナ禍をきっかけに、コミュニケーションを取りながらご飯を食べる機会がなくなってしまっていたのが、とても大きいと思います」

居場所で食事を共にすることは、単に腹を満たすだけでなく、子ども達の生活や環境についての理解を深める貴重な機会でもある。

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─ 食事も体験活動のひとつ

安達は、“食”も子ども達にとって新たな体験の場であると言う。

「たまにご提供いただいたもので『ボルシチ』とか出せるときがあるんですよ。そんな時は『食べるのは初めて!』という声が聞こえます」

未知の食材やメニューに出会うことは、子ども達にとって興味深い体験となる。

「ビーフシチューは『牛肉じゃないシチュー』と思っていた子もいました。ビーフってどう考えても牛肉のことを指しているはずですが、『牛肉ではなかった』といった話を聞いたこともありました」

子ども達が“食”を通じて新たな発見をすることは、彼らが知っている世界の拡大に繋がる。

「実は時々、料理系のイベントをやるので、自分で料理ができるようになった子もいます」

足立区の居場所型の学習会に来ている子ども達は、“自分で料理をすることができる”割合が地域全体の平均値よりも高いことが調査で明らかになっている。

「何かしているところを間近で見たり、イベントに参加したりすることは大切です。料理に限らず、新しくできることが増えたり、やってみようと思う意欲がでてくるからです」

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子ども達が抱える課題に深くフォーカスして欲しい

─ 社会を信頼できない子どももいる

「問題を抱えている子ども達の中には、『どうせ点数で決めつけるんでしょ』とか、『良くないことをしたらただ怒るだけで、自分がなぜそういうことをしたかという部分には目を向けてくれないよね』と思っている子もいるんです」

安達は、それとは真逆の存在であるということを大事にしている。

「例えばテストの点数が悪いといった一つの場面を切り取っても、『この子ってなんで点数低いんだろう』『何がその周囲で起きているんだろう』とか、『この子を取り巻く環境に異常はないんだろうか』『何か影響してるところはないだろうか』とか」

子どもの貧困という共通した社会課題を抱えていても、その程度やあわせ持つ背景も違うから、もう一歩深い関心を向けることで課題の本質が見えてくる。

「表面だけを色眼鏡で見たり物差しで計るのではなくて、その子一人ひとりと向き合いながら、深く関わりながら、寄り添ってあげられる社会であって欲しいと思います」

そう言って、安達は今日も子ども達のいる居場所へ向かって行った。


【シリーズインタビュー記事】

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Achievements

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  • 学習支援を届けた生徒

    2,078

    2023年度の実績

  • 開催した学習会

    5,949

    2023年度の実績

  • 支援を届けた子どもと親

    603,860

    2023年度 情報・物資等支援 延べ人数

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