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受講生を増やしても、全国に支援はまだ届いていない ── オンライン学習支援最前線

2022年の11月から始まった、キッズドアのオンライン学習支援。その担当になったことを入職初日に知った三沢和也は、この1年半オンライン事業の運営・組織作りに邁進してきた。

そして、この2024年度は受講生の定員を1.5倍に増やすという。オンライン学習支援の最前線を切り拓く三沢に話を聞いた。

※内容は取材当時(2024年4月時点)のものでプライバシー保護のため一部加工・編集

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三沢 和也 
困窮家庭の高校生に向けたオンライン学習支援をするキッズドア学園高等部オンライン」を担当。大学卒業後、地元の山形で4年間中学校の教師を務める。その後飲食業界を経て、学校とは異なる教育の場で子どもたち一人ひとりに寄り添ったサポートをしたいという思いから、2022年キッズドアへ入職。

自分の考えを自分の言葉で伝えたい

━ 生徒にかける言葉に悩んだ教員時代

三沢は中学校の教師から飲食業界へ転身という異色の経歴を持つ。最初の赴任先は、自身の母校である山形の田舎の中学校だった。なぜ教師を辞めて異なる道を求めたのだろうか?

「教師になると自分の言葉を生徒達の前であたかも正解かのように語る瞬間がとても多くなって、『自分の言葉は本当に正しいのか?』と考え過ぎてしまい、生徒に言葉をかけづらくなってしまった時期がありました」


正解・不正解の軸で考えてしまっていた当時の自分について語る三沢。教師として嘘のない言葉を生徒に伝えたいという強い気持ちが感じ取れる。

「それで、自分の言葉をひとつひとつ整理するために、いろいろな人の意見や考えを聞いてみたいと思うようになりました」

教員だけの経験では学校の狭く閉じられた世界のことしか分からないという思いが、彼の背中を転職へと押した。


自分の言葉を整理するために飲食業界へ転身

そこで三沢が飛び込んだのは、教育とは全く関係のない飲食業界、バーの世界だった。


「そこでは、いろいろな人から人生や生き方についての話を聞く機会がありました。本人から直々に話を聞くので、本当に様々な生き方があるんだなとつくづく実感しました。

特に、高校・大学へ進学してその後就職するというルートだけが正解の道じゃないと感じました」


従来の教育からは見えない多様性を目の当たりにした三沢。人々の生き様が、彼の心に深く響いた。自分の言葉を整理するために飛び込んだ飲食業界で、自分が求めていたものに気づいていく。


「生徒に『自分はこう感じて、こう思う』と伝える時に、自分が自分の言葉を信じられるような経験をしたかったのです」


自分なりの“嘘のない言葉”は、結果的に子ども達の選択肢を増やすことにつながっていくと感じた。


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オンライン自習室の様子

オンライン事業は支援を全国に広げていく方法のひとつ

「驚き」よりも「やりがい」が勝ったオンライン学習支援

その後、どうしてキッズドアに入職したのだろうか。


「やっぱり教育に関わりたいという想いがあったからです。そして、学校以外の環境からも教育に携わってみたいと思っていました。

なので、学校ではないけれど教育に一番関わりのある場所で、且ついろいろな子ども一人ひとりに向き合いながらサポートできるような場所を探して、キッズドアにたどり着きました」


キッズドアで三沢が担当することになるのは、新規に立ち上がるオンラインの学習支援事業だった。


「実は入職した初日に、新規のオンライン事業を担当すると初めて聞かされたんですよ。想像していなかったので、すごく驚きました。

でも、これからの時代はオンラインの必要性はますます広がっていくのは分かっていたので、全国に学習支援を広げていく、そのツールがオンラインなんだって思うと、あまり抵抗は感じませんでした」


この新規事業が提供するサポート内容を知ると、彼のモチベーションはさらに高まっていった。

「この学習会では、一緒にどう勉強していくかとか、どう大学を決めていくかということを、受講生一人ひとりに対してオンラインで面談しながら支援していくと聞いて、自分がやりたいことと共通する部分がたくさんあると思いました。むしろやりがいを強く感じました」

困難を抱えながら大学進学を目指す100名の高校生を支援する

三沢が担当する新規事業は“キッズドア学園高等部オンライン”としてスタートを切った。オンライン完結型のため全国から参加が可能な、完全無料の大学受験サポートシステムだ。

「基本的な参加条件としては2つあります。まずは大学進学を目指している高校生というのが前提で、且ついろいろな事情で塾や予備校に通うことができない高校生です。

2023年度は約100人の受講生がいて、その8割が母子家庭でした。なかには児童養護施設から通っている高校生もいました。何かしら困りごとやハンデを抱えている点は共通していると思います」


アンケートによると、受講生の家庭の年収は、5割が200万円未満で、8割が300万円未満だという。貧困世帯にとっては、塾代や交通費の負担がとても重くのしかかる。“キッズドア学園高等部オンライン”がなければ、学校以外で学ぶ場がなかったと考えられる。

受講生を増やしても、全国に支援はまだ届いていない

大学進学を目指しているが塾や予備校に通えない多様な事情を抱えている高校生は、まだまだ存在している。2024年度は受講生の数を1.5倍に増やすという。


「受講生が100人から150人になることで、我々職員だけの力ではもう絶対に無理です!

受け入れ態勢を整えるために、この4月までに10人近くの新しいチューターを採用しました。その方々に、我々が今まで1年半ぐらいやってきたノウハウを引き継いでいます」

チューターが高校生一人ひとりと一緒に考え、職員がチューター一人ひとりと一緒に考える、というような組織作りだ。大学進学を支援していくのでチューターは誰でもいいわけではない。

「どのように子ども達の話に耳を傾けて欲しいのか、どのような学習計画を一緒に計画して欲しいのか、我々職員がチューターにノウハウをしっかり共有しなければいけません。高校生一人ひとりの支援を一緒に考えていく専属チームです」

チューターの力を借りて、なるべく多くの高校生に支援を届けたいと思う三沢。完全オンラインの支援なら、日本全国どこの地域でも同じような質の支援を提供できる。だが、山形県出身だからこそ、都市部と地方では教育機会の地域間格差があることも知っている。実際、“キッズドアの学習会は近場にないのでもっとたくさん学べる場所ができるといいな” という声が届く。

「受講生の数を150人に増やしても、まだまだ全国へ支援が届き切っていないと感じます」


どの地域に生まれても、どんな環境で育っても、学びたい子ども達に学ぶ機会を提供する、その方法がオンライン学習支援だと三沢は期待している。

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個別面談で支援する「自己理解」と「自己決定」

 その子の言葉で話してもらうことを意識する

キッズドア学園高等部オンラインでは定期的に2週間に1回30分の個別面談を行なって、じっくりその子の話だけを聞いている。


「不安や上手くいかないことなど、自分の気持ちをただ素直に話してもらう場なんです。いかにその子の言葉で話してもらえるかを意識して接しています。

思いを言葉にすることで自分の気持ちや望みを整理し、実際に何をするのかを自分で決めてもらう場でもあります。受講生が『自己理解』をして『自己決定』する、大切なサポートの時間です」


━ オンラインだから安心して話せる受講生もいる

オンラインだと繋がりを感じにくい・関係性を築きにくいという心配もありそうだが、特に個別面談はやりやすい環境だと三沢は言う。


「オンラインでバーチャルに仕切られた空間は、その受講生のためだけの空間です。また、いつでも途中で退出できるという安心感があります。距離がある関係なので、いつも一緒にいる周りの友人や家族には言えないことも、私達には話してくれているようです。

受講生の中には直接人と関わるのが苦手だったり、学校での人間関係がうまくいかなくてトラウマになっている子が多いので、通塾などの心配をせず話ができる環境が安心材料になっています」


実際、受講生のアンケートでは、オンライン支援について “家の中で安心して学習できる” “対面より緊張しない” “体調管理がしやすい” といったコメントが届いている。オンラインによる支援の方が子ども達のニーズに応えることができる部分があるということだ。


━ 保護者から見た子どもの状況も欠かせない情報

ただし、オンラインは受講生の普段の生活や勉強の様子を直接確認できないので、より多くの情報を受講生から聞くための工夫は必要だ。


「少しでも話をしやすい空気を作るようにしています。『あなたの話はちゃんと聞いてるよ』ということが伝わるように、その子が安心して話せているのか確認しながら、限られた画面に映る範囲で表現しています


受講生から直接聞く話以外に、保護者からの情報も非常に重要だという。


「このキッズドア学園高等部オンラインに通っている子達は、親からの制約や親子関係の問題を抱える子もいます。つまり、保護者の視点から見た子どもの状況が、その課題の核心になることもあるのです」


保護者が子どもにどのようなアプローチをしているのか、どのような話をしてるのかをしっかり聞いて、頭に入れた上で子どもと話をするのは本当に大切だと三沢は語る。


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僕が提供できるのは「選択肢」でしかない

━ 今、自分の言葉について思うこと

飲食業界を経てキッズドアに入職して約1年半が経つ。三沢は “正解がないことでも自分の言葉で伝えたい” という思いを、今どのように感じているのだろうか?


「キッズドアで様々な背景を持つ子ども達と関わる中で、やはり自分の言葉はその子にとって『正解かもしれないし不正解かもしれない』と思います。全てにおいて白黒つけることができないと感じています。

僕が提供できるのは、あくまで『選択肢』なのだと思います。自分の経験から得た知識や感覚を元に、『今のあなたの状況に対して、こう考えることもできる』という意見を、誠実に伝えることが大切だと思います」

大学に合格した受講生からの感謝の言葉

この春、キッズドア学園高等部オンラインから、北海道大学や広島大学などの大学に多くの受講生が進学した。その一人から、こんな感謝のメッセージが三沢に届いた。

私が志望動機や面接で全力を出し切れたのは三沢さんのサポートのお陰です😭✨
本当に有難うございました!!
また、筑波大学の存在を知れたこと自体がキッズドアのお陰です。本当に感謝しかないです。
こうしてキッズドアにサポートして頂けて、本当に良かったです✨
ありがとうございました!!!


「この受講生は最初、自宅から近い関西エリアの大学を志望していましたが、個別面談を通じ自己理解が深まり、ある分野の研究をしたいという思いが分かってきました。

そのため、その分野の研究ができる筑波大学をひとつの選択肢として紹介しました。筑波大学に在籍中のチューターと話をする機会も設けました。最終的にその受講生は筑波大学を受験し、合格することができました」


三沢は、筑波大学という新たな選択肢を増やすサポートはしたが、受験校は受講生自身の決定だった。


「自分の考えを相手に押し付けるのではなく、あくまで選択肢を増やすことが子ども達の役に立てばいいなと思います。様々な選択肢の中でどれを選ぶのかは子ども次第です。その『選ぶ』という『自己決定』のプロセスは、個別面談で支援することができますから」


“今では、肩肘張らずに子ども達一人ひとりに対して自分の言葉で話ができるようになったんじゃないかな”と話す三沢。今年度は150人の受講生を迎え、三沢自身の言葉で選択肢を提供する一年がまた始まった。

 

【シリーズインタビュー記事】

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  • 学習支援を届けた生徒

    2,078

    2023年度の実績

  • 開催した学習会

    5,949

    2023年度の実績

  • 支援を届けた子どもと親

    603,860

    2023年度 情報・物資等支援 延べ人数

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