インタビュー

体験格差・IT格差

『自分は自分でいい』と思える瞬間を ―― アート体験が子どもにもたらすもの

経済的な困窮や家庭環境によって「スタートラインに立つことさえ難しい」子ども達を支援するため、キッズドアでは2023年からチャリティパーティを開催しています。過去3回のパーティでオークショニアを務めてくださっているのが、世界最大級のオークションハウス、株式会社 クリスティーズ ジャパン(以下、クリスティーズ)代表取締役社長の山口桂さんです。

アートに触れるという「非日常」の体験は、厳しい環境で育つ子ども達に、どのような変化をもたらすのでしょうか。クリスティーズ 山口さんと、キッズドア理事長の渡辺由美子が、「アートの力」と、子ども達の心を開く「体験型支援」の可能性について語り合いました。
※内容は取材当時(2026年8月時点)のものです

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山口 桂さん(左)
株式会社 クリスティーズ ジャパン 代表取締役社長。広告会社勤務を経て、1992年クリスティーズ入社。日本・東洋美術のスペシャリストとして、数多くの実績を残す。海外勤務を経て、2018年よりクリスティーズ ジャパン代表取締役社長を務める。

渡辺 由美子(左)
キッズドア理事長 プロフィール詳細はこちら

一通のメールから始まった出会い

キッズドア 渡辺
初回は小さなチャリティパーティだったので、知り合いにオークションの司会をお願いしていたんです。おかげさまで翌年には規模が大きくなり、専門の方にオークションをお願いしたほうがいい、となりました。

「まずは名の知られたところに」と思って、飛び込みでクリスティーズさんに問い合わせのメールを送らせていただきました。まさか代表である山口さんご自身がオークショニアを引き受けてくださるとは、思いもしていませんでした。

クリスティーズ 山口さん
日本では商業オークションは行っていませんが、チャリティオークションのご依頼があった際は、私がオークショニアを務めています。

オークションは、落札価格を含めて広く公開して行っていますし、誰でも無料で参加できる、開かれた性格を持つものです。そうしたことから、弊社では公共性や透明性を大切にしています。だからこそ、チャリティなど公益性のある活動については、私達にできることであれば、なるべくお手伝いしたいと考えています。

せっかくお声がけいただいたなら、という気持ちと、以前にキッズドアさんのCMを拝見して関心を持っていたこともあり、お引き受けしました。

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チャリティパーティでオークショニアを務めるクリスティーズ 山口さん

「お金の使い道」を伝えるチャリティオークション

クリスティーズ 山口さん
チャリティオークションの場合は、通常の商業オークションと違って、金額の先には「お金の使い道」があります。そこをきちんと伝えることで、1円でも多い価値を感じていただき、落札していただけるよう心がけています。日本でも、てらいや人目を気にすることなく、ほがらかに参加していただけるオークションになるといいなと思っています。


キッズドア 渡辺
ジャーナリストの池上彰さんによる講演など、子ども達の体験そのものが出品されるのは、普通のオークションにはない大きな特徴だと思います。

クリスティーズさんには、オークショニアを務めていただくだけでなく、子ども達を美術館にお連れする体験型企画にもご支援いただいています。貴重な体験の機会を届けていただいていることに、心から感謝しています。

‎なぜ「アート体験」なのか

クリスティーズ 山口さん
美術館の入場料が無料でも、そこに行く交通費もままならない、という話を伺いました。それなら、その障壁を全部取り払えるような企画にしたいと考えたんです。アートには、一枚の絵を見ただけで人生が変わるほどの衝撃を与える力があると信じています。そのきっかけを、子ども達に届けたいと思いました。


キッズドア 渡辺
調査をしてみると、一度も美術館に行ったことがない子ども達が多いことが分かりました。そうした体験の少なさが学力面での差にもつながっている可能性があります。

「美術館のチケットをあげるから行ってね」というのはやりやすいことですが、実際に子ども達が出かけるには様々なハードルがあります。そこを、美術館という素敵な非日常空間にみんなで出かけるイベントにすることで、当初想像していたよりも多くの子どもが毎回参加してくれています。

そして、美術館では専門家がレクチャーしてくださり、絵の見方や楽しみ方まで教えていただけるのが、とても価値のあることだと感じています。


クリスティーズ 山口さん
弊社の下見会は、出品される作品を誰でも見にくることができる開かれた場になっています。学校の先生が生徒達を連れて鑑賞に来ることもあるんですよ。一人で見るより、誰かと感じたことを共有する方が、気づきや考えが深まるように思います。

子ども達の変化を目の当たりにして

クリスティーズ 山口さん
正直、最初は人があまり集まらないのではないか、来たとしても下を向いて足早に帰ってしまうのではないか、という不安もありました。でも全くの杞憂でした。鋭い質問をしたり、熱心に見入ったり、友達同士で感想を話し合ったり。アートに触れることで、心や目がふっと開くような瞬間を何度も目にしました。

キッズドア 渡辺
参加した生徒には、生きづらさを感じていたり、「自分は人と違うのではないか」と思い悩んでいる子も少なくありません。

でもアートの世界はとても自由で、個性を大事にしていますよね。専門家から作品の背景を聞くことで、「人と違ってもいいんだ」「自分の思いを形にしていいんだ」と、生きることへのまなざしが少しずつ広がっているように感じます。

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作品を鑑賞する様子(2026年7月に実施された森美術館鑑賞ツアーにて)
作家名・作品名:ロン・ミュエク《イン・ベッド》 
この写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスの下で許諾されています。

「正解」のないアートの世界

クリスティーズ 山口さん
特に現代美術は、それまでに存在しなかったものを生み出す表現です。「美術館といえば絵を見る場所」と思っているところに、巨大な顔の作品に出会ったりすると、固定観念が良い意味で崩されます。今回、そうした自由さに触れてもらえたのは、大きな意味があったと思います。


キッズドア 渡辺
日本では、図画工作や美術の授業でも「うまい・下手」で評価されがちです。でも本来、アートにそうした優劣の概念はないはずですよね。


今はどの教科でも「正解」があって、それに向かって全部合わせにいく。望ましい子ども像を求めるあまり、個性が評価されないことがあるような気がします。


画一化された価値観のなかで、少しはみ出している子が生きづらさを感じてしまう。そうしたところから、アートに触れることで解き放たれることがあるのだと思います。それを肌で感じてもらえたのは、とても大きなことだと思います。


クリスティーズ 山口さん
実は私自身も、小学校で校内の好きな場所を写生する授業で、先生にひどく怒られた経験があるんです。校舎の端っこを拡大して、太陽も大きく描いたんです。そうしたら、みんなの前で「これは絵じゃない」と叱られました。だからこそ、子どものときから多様な表現に気づける機会が大切だと思うんです。

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アート体験が果たす役割

クリスティーズ 山口さん
実は私は、障害のある家族がいる環境で育ったんです。「できる人が、できない人を支えるのは当然のことだ」という価値観を、幼い頃から自然に培ってきました。


そして、公益性を大切にするイギリスの会社に長く勤めてきて、「ノーブレス・オブリージュ(※)」という言葉の大切さを実感しています。私達の仕事では、一枚の絵が何百億円で売れるような世界を目にすることもあります。そのお金があれば、と思ってしまう瞬間は正直ありますが、「社会の不条理に対して何ができるだろうか」という問いを持ち続けることが大切だと思うんです。


家族の一人は目に障害があるのですが、 音楽と出会い、ドラムを演奏するようになったことで、人生が大きく変わっていく姿も目にしました。私自身もクリムトの《接吻》との出会いによって人生が変わったひとりです。アートに限らず音楽など、すべての芸術には「自分にできないこと以外に、できることがあるという気づきをもたらす力がある」のだと思います。 


アートは自由だ、ということが最も重要なテーマだと思っています。自分には自分なりの良さがあり、誰にでも良いところと課題があって、その良いところを伸ばしていけばいい。アート体験を通じて、そう気づいてもらえたら嬉しいですね。


キッズドア 渡辺

そんな風に理不尽な状況に一緒に立ち向かってくれる人がいる。応援しているよと言ってくれる人がいる。そのこと自体が、子どもにとっても親にとっても、大きな支えになるんです。


「そんなに気を張って生きなくていいんだよ」と思うのですが、心がぎゅっと固まってしまっているような子が本当に多いんです。アートに触れることで、「自分は自分でいいんだ」と少しずつ思えるようになってもらえたらいいなと思います。毎日を自分らしく生きていくために、アート体験が果たせる役割は大きいと感じています。

※ノーブレス・オブリージュ(noblesse oblige):身分の高い者はそれに応じて果たさねばならぬ社会的責任と義務があるという、欧米社会における基本的な道徳観。 (小学館 デジタル大辞典より)

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Achievements

長年続けてきた活動が、
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  • 学習支援を届けた生徒

    2,293

    2025年度の実績

  • 開催した学習会

    6,956

    2025年度の実績

  • 支援を届けた世帯数

    5,105世帯

    物資・情報等支援 2025年度実績

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