インタビュー
子どもの貧困
教育格差
クリエイティブで教育格差へ挑む ── ACジャパン広告制作スタッフインタビュー
公益社団法人ACジャパン(以下、ACジャパン)は、公共福祉に取り組む非営利団体を対象に、広告を通してその活動を支援する取り組みを行っています。キッズドアは2025年度の支援先として選ばれました。
今回キッズドアの広告企画には、全国のACジャパン会員広告会社から寄せられた多数の提案の中から、株式会社電通 関西オフィス(以下、電通関西)による『未来をひらく、ドアになる。』が採用されました。

本インタビューでは、この広告を企画・制作担当した電通関西 クリエイティブチームの皆様にお話を伺いました。「未来をひらくドアになる」というコンセプトのもと、電車をモチーフにした表現が生まれた背景や、実際に支援教室を訪れて感じたこと、そして完成後の想いまで。広告ができるまでの裏側を伺いました。
※内容は取材当時(2025年11月時点)のもので、読みやすい体裁にするため一部文章を整えています。

写真左から)電通関西の 桂 啓太さん、石井 野絵さん、千切谷 将一朗さん、大槻 祐里さん(詳しくはこちら)
支援が十分に行き届いていない課題は何か
━ このたびは、キッズドアの広告を制作していただき、ありがとうございました。様々なテーマが募集されている中で、なぜキッズドアを選んで提案してくださったのでしょうか?
千切谷さん
僕と石井は昨年度入社した同期で、どんな団体に応募するかを一緒に相談しました。「支援が十分に行き届いていない課題は何だろうか」と考えて、子どもの支援をしているキッズドアさんに提案しようと決めました。
石井さん
私は地方出身で、それほど裕福な家庭ではなかったこともあり、 個人的に『教育格差』に関心がありました。住んでいる場所やお金があるかどうかで、進路の選択肢が限られてしまったり、進学先でも出来ることに差が表れたりする場面を見てきました。そうした経験から、本人の努力ではどうにもならない理由で、将来の幅が狭まってしまう子どもを支援するキッズドアさんの活動に共感し、応募したいと思いました。
“未来をひらくドア”をどう描くか
━ 提案のための企画段階では、どのようにコンセプトを作っていったのでしょうか?
石井さん
キッズドアの名前にもある「ドア」というモチーフが、「次に進む」「未来へ向かう」という象徴として素敵だと思いました。チームで「どんなドアがいいか」を話し合い、時間をかけてアイデアを練りました。
千切谷さん
ただの扉だとよくある表現になってしまうので、「進路」や「行き先」という言葉から連想して、電車のドアをモチーフにしました。電車はすごく身近な存在ですし、乗ることで景色が変わり、いろんな方向に進んでいくので、子ども達の未来に続くドアを表すのにぴったりだと思いました。
僕が最初に書いた「未来をひらくドアになる」というコピーが、テーマを方向づける大切なキーワードになったと思います。コピーから企画を広げていく形で進めました。

「未来をひらくドア」を象徴する電車のシーン。近畿日本鉄道の最新車両で撮影。
教室を訪れて見えた子ども達の“まなざし”
━ 企画が採用された後、学習会の現場を見学いただきましたがいかがでしたか?
大槻さん
神戸の教室訪問は、想像して描いていた部分を見つめ直すきっかけになりました。最初は「かわいそうという表現にならないように」と注意していたのですが、実際に教室を見て「そう考えていたこと自体が、間違っていた」と感じました。最初から気にする必要がなかったのです。かわいそうな子は全くいなくて、子ども達は明るく、楽しそうに過ごしていて、大人の私が仲間に入りたくなるような活気がありました。
千切谷さん
そこにいた子ども達は、志望校に向けて燃えていたり、黙々と勉強に取り組んだりしていて、目の奥にある熱や意志を感じました。「支援が必要」という表現よりも、彼ら自身が前を向いて進路に向かって突き進む姿を描くことが、企画の中心にあるべきだと感じ、目線の捉え直しの必要性を実感しました。

思春期を等身大の目線で代弁できるよう、自然な雰囲気を大切にキャスティング。「目の奥が明るくなっている」ラストカットは特にこだわりのシーン。
子ども達の前向きな力をどう描くか
━ 制作過程で調整や工夫をした点はありますか?
千切谷さん
来るはずのない電車が現れ、乗ることで未来へ進む――そんな少しファンタジーな構成なので、どうリアルに見せるかが難しかったです。ファンタジーに寄りすぎず、キッズドアさんの実際の事業にしっかり繋がるよう意識して制作しました。
また、神戸の教室を見学した際の気付きを受けて、子ども達の表情や目の奥にある前向きな力をどう描くかを、監督と何度も話し合いました。ラストカットでは、子ども達の目の奥が明るくなっているような表情は、かなりこだわりました。
石井さん
グラフィックポスターでは、電車らしさをどこまで残すかに苦労しました。つり革や車内広告などの具体的な要素をレタッチで減らし抽象化することで、「未来へ進む象徴」として、電車とその扉を幻想的かつ明るく希望を感じられるような空気感に仕上げました。
桂さん
ナレーションでは、当初、プロのナレーターを起用する予定でしたが、監督がデモ用に録音した声をそのまま採用することになりました。完成されすぎていない柔らかく優しい声が、雰囲気にぴったり合っていたからです。今回は一人の少年の物語なので、まるでかつての少年が大人になって語りかけるような温かさが生まれ、この作品ならではの包容力を感じられる仕上がりになりました。

子ども達の未来に広がる職業の幅を、電車の窓からの景色として描いた印象的なシーン。
家庭環境で選択肢が狭まるのは『仕方がないこと』ではない
━ 制作の前後で、キッズドアや教育格差について印象の変化はありましたか?
桂さん
まず教室を見学して、子ども達が本当に安心して通っている様子に心を打たれ、印象が大きく変わりました。最初に渡辺理事長と話したときに、「子ども達は暗くないし、すごく前向きなんです。それだけはわかって欲しいし、そう描いて欲しい」と強くおっしゃっていました。「それがこういうことか!」と腑に落ちました。「貧困家庭の子どもを支援する」という言葉にとらわれてしまうと、多分大きく誤解してしまうと思うんです。
石井さん
困っている子に“施しをする”団体ではなく、明るく一緒に歩んでいくような、前向きな取り組みをされている“伴走する”団体なんだなと分かりました。
大槻さん
資料を読み込むうちに、教育は本来すべての子どもに平等であるべきだという理念に強く共感しました。家庭環境によって選択肢が狭まるのは、「仕方がないこと」ではなく、社会が変えていくべき固定観念なのだと気づかされました。今回の制作を通して、キッズドアさんの活動は、日本全体の意識をアップデートしていく活動でもあると深く感じました。
この広告が、誰かのドアになるように
━ この広告が全国で展開されていますが、どのように皆さんに届くと嬉しいですか?広告に込めた想いを教えてください。
桂さん
まずは「キッズドア」という名前を知ってもらうこと、どんな活動をしているかを伝えることが広告の役割です。そこから少しでも、「自分にもできることがある」と感じて行動に移してもらえたら、本当に嬉しいです。
石井さん
「大変な子達がいるよね」で終わるのではなく、「応援したい」という前向きな気持ちが広がればと思っています。見る人が、課題を“知る”だけでなく、“自分にできることを考える”きっかけになったら嬉しいです。
千切谷さん
僕は地方の公立校で育ち、塾に行けないまま受験に苦労した経験があります。振り返ると、家庭環境だけでなく「知っているかどうか」でも選択肢は変わるのだと感じます。だからこそ、子ども達にはキッズドアのような支えてくれる存在があることを知って、諦めずに前へ進んでほしい。今回のCMが、教育だけでなく情報にも格差があることに、多くの人が気づくきっかけになれば嬉しいです。
大槻さん
そして今回制作していくなかで、子どもも、その周りにいる大人も「将来こういう道を進んでいくしかないんだろうな」と、可能性を狭めて考えていることって結構あるんじゃないかと感じました。だから、「自分ももしかしたらドアを開けば新しい道が続いているんじゃないのか」と可能性を感じられる世の中になればいいなと思っています。そのための支援のひとつとしてキッズドアがあることを見せられたらと思います。
クリエイティブチームの皆様からのひとこと

写真左から)
桂 啓太(かつら けいた)さん:電通関西 クリエイティブディレクター
「若手スタッフが自分達の企画を全国に届けられたことが何より嬉しいです。この作品を通じて、社会的意義のある広告づくりの価値を改めて実感しました。」
石井 野絵(いしい のえ)さん:電通関西 アートディレクター
「初めて手がけた交通広告とCMで、両親がとても喜んでくれたことが一番の励みになりました。自分の作品が街に出て、多くの人に見てもらえたことがとても嬉しかったです。」
千切谷 将一朗(ちきりや しょういちろう)さん:電通関西 CMプランナー・コピーライター
「広告が新聞に掲載されたとき、家族が写真を送ってくれたのが印象に残っています。1年目でまだ経験が少ない中、自分の仕事が世に出る手応えを感じられました。」
大槻 祐里(おおつき ゆり)さん:電通関西 CMプランナー・コピーライター
「社内外から『温かいCMだね』と声をかけてもらいました。ここまでエモーショナルな表現に振り切ることができ、貴重な機会を頂けて本当に嬉しかったです。」
編集後記
この広告が公開された後、かつてキッズドアで学んでいた卒業生からメールが届きました。広告を見て、当時のお礼を伝えたいと連絡をくれたのです。メールの最後には、「今後もキッズドアでひとりでも多くの子達が自分の環境に負けず、夢を叶えられますように」と綴られていました。
この広告を通じた支援を力に、キッズドアはこれからも多くの子ども達の未来をひらいていきます。
ACジャパンならびに電通関西の皆様、このたびはキッズドアの広告を企画・制作していただき、心より感謝申し上げます。
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