インタビュー

教育格差

三菱UFJ銀行からキッズドアへ週1派遣——教育格差解消に向けたシンポジウム開催へ

企業からの人材派遣という新たな試みの第一号として、三菱UFJ銀行からキッズドアへ派遣された長岐晴美さん。2024年7月の着任以来、週に1日キッズドアで働きながら、「子どもの教育格差に関するシンポジウム」の企画・運営に尽力し、2025年1月の開催を成功へと導いていただきました。
派遣されることになったきっかけから、内外から見たキッズドアの印象や、シンポジウムへの思いについてお話を伺いました。

※内容は取材当時(2025年3月時点)のものでプライバシー保護のため一部加工・編集

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長岐 晴美(ながき はるみ)さん
2009年に三菱東京UFJ銀行(当時)に入行。支店での窓口業務、法人営業、インターネットバンキング関連の企画・開発業務を経て、現在は内部監査を担当。2024年7月より週1日キッズドアに勤務。教育学部出身で、学生時代は教師になることを夢見ていた。

週に1日キッズドアに派遣されることになったのはどんな経緯があったのですか?

ある日、「キッズドアというNPOに出向するという話があるんだけど」と、上司から告げられました。これまで出向の経験はなく、キッズドアがどんな団体なのかも知らなかったので、正直なところ少し不安でした。

後になって知ったのは、キッズドアの渡辺理事長が弊社トップマネジメントとの間で「社会課題を共に解決していきましょう」という課題認識が共有され、その解決策のひとつとして派遣が実現したという経緯でした。併せて弊行としては、人材育成の観点も込めていると聞いています。

なぜ長岐さんが選考されたのかご存じですか?

もしかすると、さまざまな面から私の経歴を見て選んでいただいたのかもしれません。社内のボランティア活動には積極的に参加していましたし、実は教育学部出身なんです。教師になる前に社会をよく知っておきたいと思い、銀行に就職しました。


大学の卒論では「企業のCSRにおける教育分野の可能性」をテーマに研究し、企業の社会貢献をもっと広めたいと考えるようになりました。その思いから、社会貢献を担当する部署への異動を希望していたんです。それも、選ばれた理由のひとつだったのかもしれません。

キッズドアに派遣されると聞いてどう思いましたか?

正直なところ、キッズドアのことをまったく知りませんでした。子どもの教育格差や、日本の子どもに貧困問題があることすら意識していなくて……。自分は本当に無知だったな…と痛感しました。


派遣が決まってから、ホームページでキッズドアの活動を調べましたが、NPOだからきっと「地道な活動」をしているんだろうな、という漠然としたイメージしか持てませんでした。そんな自分がそこへ行って、果たして何ができるのか――まったく想像がつきませんでした。

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実際に勤務してみてどのような発見がありました?

キッズドアで実際に働いてみると、最初に抱いていたイメージが大きく変わりました。想像以上に積極的で前向きな活動をしていることが分かりました。


子どもの貧困教育格差といった「暗いところ」だけに焦点を当てるのではなく、高校生向けのキャリア教育プログラムのように、未来に目を向けた取り組みをしている。その姿勢が、とても前向きなメッセージとして伝わってきました。キッズドアは本当にバイタリティあふれる団体だなと感じました。

意外だったことや、驚いたことはありましたか?

支援をただ提供するのではなく、「こういう子に、こんな活動を通じて、こうなってほしい」としっかりイメージを持ち、計画的に活動していることに新鮮な驚きを感じました。お金の使い方をしっかり道筋立てて計画して実践しているのが、銀行と似てるところがあるなと感じました。


一番驚いたのは、受験を目指す生徒たちへの進学サポートに力を入れていることです。私自身、学生時代に予備校でアルバイトをしていたので、受験のサポートがどれほど大変かよく分かります。それを、子どもたちに無料で提供しているのは本当にすごいことだと思いました。

週1日、異なる職場で働くことをどう感じていますか?

週5日のうち1日はキッズドアに出勤するため、銀行での業務時間は約20%減ってしまいますが、上司や同僚の理解とサポートのおかげで、うまく両立できています。銀行だけでなく、メーカーなど他の企業でも、週1日の派遣という働き方は十分に実現できるのではないかと感じています。


週1日の勤務だと、どうしてもキッズドアで顔を合わせる人が限られてしまいますが、休日に都内を散歩する有志の集まりに何度か参加し、オフィスにいない学習会担当者の方とも交流の機会を持つことができました。

キッズドアではシンポジウムの企画・運営を担当されましたね?

週1日の派遣という限られた時間の中で、日常的な業務を担当するのは難しい。そうした制約の中で、「子どもの教育格差に関するシンポジウム」の企画・運営を担当することになりました。

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シンポジウムを企画するのは初めてでしたし、実はこれまで参加したことすらなかったので、最初はまったくイメージが湧きませんでした。でも、渡辺理事長やスタッフの皆さんと話し合いを重ねながら、一歩ずつ形にしていきました。


同じチームの方々をはじめ、さまざまな部署の皆さんの力を借りて実現したシンポジウムでした。私一人では決してできなかったことを、皆さんの力をまとめることで実現できたのだと感じています。

シンポジウムでは手ごたえを感じましたか?

当日は、ソーシャルセクターの方々をはじめ、企業や学校関係者、政治・行政、メディアの方など、さまざまな立場の方にご参加いただき、約150名が集まりました。


成果としては、アンケートで98%の方が「今後の活動の参考になった」と回答してくださいました。気づきや行動につながるきっかけを提供できたのではないかと思います。特に、シンポジウムのパネルディスカッションに登壇したキッズドアの卒業生の話には、多くの方が「感動した」「共感できた」と声を寄せてくださり、しっかりと伝わる内容になったと感じています。


また、参加者同士の意見交換や情報共有の場として機能したことも、大きな価値だと思います。ただ、1回のシンポジウムでできることには限りがあり、継続して発信を続けることで、より大きなインパクトを生み出せるはずです。そのため、理事長を含めたチームでも「今後もシンポジウムを続けていきたいね」と話しています。


今後も継続的に開催できるよう、私自身は引継ぎ資料をしっかり整えて、任期を終えようと思っています。

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「子どもの教育格差に関するシンポジウム」当日の会場の様子

ここまでの間で、日本の子どもの社会課題に対する認識の変化はありましたか?

子どもの貧困や教育格差について、うわべだけの情報ではなく、リアルな実態に触れることができたので、とても大きな影響を受けたと思います。


もちろん、積極的に調べれば知る機会はたくさんあったと思うのですが、「1日2食で過ごしている」とか、「洋服を買ってあげられない」といった、当事者の生の声を聞いたことで、自分自身の認識が大きく変わりました。


私のように、子どもの貧困や教育格差が存在することを知らない人が、他にもたくさんいるのではないかと思います。

なぜ、日本の子どもの貧困や教育格差を知る機会がなかったと思いますか?

私には子どもがいないことも影響していると思いますし、友人との会話でもこうした話題はなかなか出てこなかったですね。普段テレビをあまり見ないので、自然と知る機会が少なかったのかもしれません。キッズドアは最近、新聞で取り上げられていますが、以前は見ている面が違うのか、私の目に入ってこなかったです。


実は、先日、ある企業の社員の方々がキッズドアに来て、受験生がいる家庭に物資を届ける作業を一緒にしているのを見かけました。三菱UFJ銀行でも、養護施設に通う子ども達にクリスマスカードを作る活動などは行っていますが、それは有志の活動の範囲です。企業が社員に対して社会問題を知るきっかけを積極的に提供すれば、知る機会がもっと増えるかもしれないですね。

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任期は残り3カ月ですね。今後はどんな展望をお持ちですか?

これまでの期間は、とても勉強になりました。子どもの社会課題に目を向けることができたのは、私にとって大事な経験だと思っています。


銀行に戻った後、社会貢献を担当する部署への異動は狭き門ですが、この経験を活かして、社会課題に銀行としてどのように関与し、どうサポートしていけるかを考えていきたいと思っています。


個人的には、ボランティア活動に参加したり、子どもの貧困や教育格差について伝えたりしていくことができればと思っています。今はまだ具体的な活動について深く考えられていませんが、それが今の私にとってのミッションだと感じています。絶対に、この経験は無駄にしたくないと思っています。


キッズドアに受け入れていただいたことにも感謝しているので、残りの期間は、任期後に私にできることについて考えながら過ごしていきたいと考えています。



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