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対象の幅が広く大学入学前に支給される給付型奨学金の充実を ── 卒業生の声
※2025年1月22日に行われた『子どもの教育格差に関するシンポジウム』におけるパネルディスカッションの発言を文字起こしし一部抜粋したものです。プライバシー保護のため一部加工・編集し、読みやすい体裁にするため一部文章を整えています。
パネルディスカッションで語られた卒業生の声
こんにちは。キッズドアの卒業生で、現在もキッズドアで活動をしております、〇〇大学〇年生のAです。
まず、私がキッズドアにお世話になったきっかけは、奨学金でした。 私は高校生のときに母が難病を抱えていたため、家事や兄弟の送り迎えなど、ヤングケアラーを担っていました。 元々全日制の高校に通っていたのですが、周りのみんなが毎日当たり前のように勉強する日々についていけなくなり、誰かに助けを求めて相談しても何も変わらず、自ら「助けてください」と通信制高校に電話をし、転学しました。
大学進学を目指していましたが、そのような状態だったため、受験料や入学金が高いので家族に申し訳なさを感じていました。そこで自ら費用を工面できないかと思い、大学入学前に支給される給付型の奨学金を調べたところ、そもそも大学入学前に支給される給付型奨学金は少なく、かつ、当時私が在籍していた通信制高校は対象外で、応募できないものが大半でした。
ここで私はキッズドアの奨学金に助けられました。キッズドア基金が運営する『ゴールドマンサックス大学受験奨学金』というものです。 給付型でかつ対象が幅広いという点で、私も応募することができました。
そう言うと、皆さんの中には「大学には、国が運営する『日本学生支援機構奨学金』があるじゃないですか」と思われる方もいらっしゃると思います。 しかし、日本学生支援機構の奨学金は、高校在学中に予約採用(※)で申し込んでも、支給されるのは早くて大学入学後になります。 入学前に支払が必要となる大学の受験料や入学金の費用は、一体どこから工面すればよいのでしょうか? そして大学を複数受験すると、まず最初に合格した併願校の入学権利を押さえておくために入学金を支払い、その後合格した第一志望にまた入学金を支払うという二重の入学金支払いが生じることがあります。 そのため、大学入学前に支給され、給付型で対象が幅広い奨学金がより多く必要なのではないかと考えています。
※進学前に奨学金の利用について予約することができる制度
そして、体験格差という面でも、私はキッズドアのキャリアデザインのイベントに助けられました。 こちらに座っていらっしゃいます日色さん(経済同友会 副代表幹事 日色保様)と、高校生のときに参加したキャリアデザインイベントでお話したことは忘れられない経験です。 当時、私は通信制高校に通い、ヤングケアラーとして過ごす日々への不安、そして高校と家しか世界がなく、どこにも居場所がない勉強の毎日でした。自分は一体何のために生きているんだろうと思ったこともありました。そんな中で参加したキッズドアのキャリアデザインイベントで、未来のために諦めないで頑張ってみようと思い直すことができました。日色さんから「君にぜひ夢を叶えて欲しい」と言っていただいたことは今でも忘れません。こうして私は、今日ここで皆さんの前に立たせていただいています。
とはいえ、奨学金の情報、食料支援、キャリアデザインのイベント情報、同じヤングケアラーである人達のコミュニティや居場所を検索しても、なかなか情報は出てきません。 私も高校生のとき、頼れるコミュニティがなかったので、唯一頼れる役所に何度も赴きましたが、私達子どもが「助けてください」と言って貰えるような食料支援も民間の支援の情報も、何も得ることができませんでした。
国が何をするにしても、必要な子に情報が届かなければ意味がないと思っています。行動することって勇気も体力も要するので、行動した子達が何も得られなかった……そんなことがないように、もっと学校、NPO、自治体が連携する必要があるのではないかと考えています。民間組織からの広報だけではなく、子ども達の一番近い存在である教員の方から、そして役所の方からも情報が流せるように協力する必要があるのではないでしょうか?また、支援が一元化されたようなサイトがあればいいなと、いつも思っています。今の日本では、自分で情報を探し、自己責任で行動することが求められています。でも、もっと他者と協力する姿勢が生まれればいいなと思っています。
佐賀県武雄市の『こどもの笑顔コーディネーター』のお話を聞いて
担当が変わらず長期的、継続的に相談できるのが、すごくいいなと思いました。学校の先生は過重労働なのもあって、先生に相談しても何も助けてくれないだろうな、変わらないだろうなというのは、生徒の子達もわかるんですよ。
そこで私は、学校から配られる電話相談とチャット相談のお知らせを見て、勇気を出して相談したことがあります。でも結局、「身近に理解者が必要ですね。学校の先生に言ってください」というふうに言われて、また後戻りしてしまいました。そして毎回違う方と電話、チャット相談をするとなると、状況を毎回いちから話さなければいけません。
対して、私が通っていた通信制高校と提携しているフリースクールでは、継続的に寄り添って具体的解決策を提案してくれました。この経験から、継続的に支援をしてくれたり、相談に乗ってくれたりする理解者がいる安心感がどれだけ大きいか気づきました。教員だけでは手が回らないことも多いと思うので、『笑顔コーディネーター』が全国各地に増えたらいいなと思います。
パネルディスカッションの終わりに
『貧困の関心が薄れてきている』という議論から始まったテーマでしたが、私も一度友達に、貧困家庭を支援するNPOで活動していると話した時に、「今の時代、貧困の人っているの?」と言われたことがあります。結構衝撃的だったんですけど、多分それを言った子の周りにも、貧困家庭の子はいたと思います。でも、自分が貧困家庭で困窮しているということを訴えると、周りからの評価があまり良くない印象があるので、やっぱりみんな隠そうとしてしまいます。隠そうとするから周りに周知もできないし、支援も受けられない。それが負の連鎖を招くんじゃないかなと思いました。
私も、こうやって過去に困っていたということを伝えることに対して、やはり自ら進んで「やりたいです」となかなか表に出られるものではなく、考えるところもありました。ただ、今の私は、今までの過去の自分の経験やバックグラウンドが自分の長所になって、今までの自分の経験に自信が持てるので、この場に立とうと思えました。 私のような経験をした人が、自信を持って社会に立てるということを伝えるために、これからも訴え、伝えていきたいと思います。
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