スタッフレポート
不登校
社会進出のルートが制限される子ども達——不登校・中途退学の現実
高校で増える不登校と中途退学
Mくんと出会ったのは、彼が高校1年生の時でした。中学生時代から長期欠席を経験し、家庭環境にも問題を抱えていた彼は、生活習慣を整えることや、課題の提出期限を守ることが苦手でした。
Mくんは比較的入りやすい工業高校に進学しましたが、入学後に待っていたのは、専門性の高い学習内容。単位を取得するためには、実技や実験レポートの提出が必須で、思った以上にハードルが高かったのです。彼は未提出のレポートが山積みとなって途方に暮れている状態で、キッズドアの無料学習会にやってきました。
一緒にレポートを確認し、教科書を写しながら何とか書き進めましたが、締め切りは目前に迫っていました。残念ながら最終的に提出は間に合わず、彼は高校を中途退学してしまいました。
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文部科学省の調査(※1)によると、2023年度の小・中学校における不登校児童生徒数は約34.6万人で過去最多となりました。高等学校においても不登校者数は過去最多の約6.9万人となっています。さらに、Mくんのように「学校生活・学業不適応」など、原因はさまざまですが、高校を途中で退学する生徒も増えており、2023年度には約4.6万人に上りました。増えている不登校と中途退学は、もはや一部の生徒だけの問題ではなく、多くの子ども達が直面している現実です。

正規就業比率が低い不登校経験者
文部科学省では、中学校3年生で不登校であった生徒の5年後の状況等の追跡調査を実施し、「不登校に関する実態調査」(※2)として発表しています。
それによると、就業状況については、有効回答数のうち 33.2%が非正規就業、正社員として働くのはわずか 8.8%、さらに、18.1%は就学も就業もしていない状況にありました。
表1.中学3年生で不登校であった生徒の20歳現在の状況
| 中学3年生で不登校であった 生徒の20歳現在の状況 |
(参考)2010年国勢調査 20~24歳 年齢層全体の状況 |
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| 正規就業 (正社員) |
8.8% | 39.2% |
| 非正規就業 (パート、アルバイト等) |
33.2% | 24.0% |
| 非就業・非就学 | 18.1% | 8.6% |
※2 文部科学省「不登校に関する実態調査 ~平成18年度不登校生徒に関する追跡調査報告書~」(平成26年公開)をもとにキッズドアが作成
この調査では、参考として2010 年国勢調査の20〜24歳の年齢層全体におけるデータが掲載されています。パート・アルバイト・その他就業者は24.0%、正社員(正規職員)は39.2%、非就業率(失業者+家事とその他の非労働力人口)は8.6%でした。
対象となる年齢は異なりますが、比較してみると、中学不登校経験者が正規雇用につきにくい現実が浮き彫りになります。不登校は単なる学業上の問題にとどまらず、その後の人生にも大きな影響を及ぼしていると言えます。
中途退学後の状況は、非正規就業や無職
一方、埼玉県教育委員会では、高等学校を中途退学した生徒(中途退学後 1 年以内)の状況を約5年ごとに追跡調査しています。その報告書(※3)によると、中途退学した生徒の「現在の状況」は、アルバイト・フリーターが40.7%、無職が18.6%を占めました。
この調査報告書のおわりでは、「中途退学後は、アルバイト・フリーターや無職と不安定な状況にある者が多く、中途退学は、高等学校生徒ひとり一人の人生を大きく左右する重要な問題」であると述べられています。
図1.埼玉県立高等学校中途退学後 1年以内の者の「現在の状況」

※3 埼玉県教育委員会「第5回高等学校中途退学追跡調査結果報告書」(令和2年度実施)をもとにキッズドアが作成
これらのデータから、「社会進出」を「社会で活躍すること、または就職して経済的に自立すること」と定義するなら、不登校経験者や中途退学者は、安定した仕事につくことが難しく、社会進出の道が大きく制限されている現状がうかがえます。
高等学校中途退学者の4割は中学時代に不登校傾向
先ほど触れた、埼玉県教育委員会の調査報告書(※3)では、高校を中途退学した生徒の約4割は、中学時代に不登校傾向があったことが明らかになりました。報告書でも「中学時代の不登校は高等学校の中途退学につながる大きな要因になっていると考えられる」と述べられています。
さらにこの報告書では、「高校中途退学者全体」と、「中学時代から不登校傾向があった中途退学者」を比較した興味深い分析も行われています。
図2.埼玉県立高等学校における「中学校時代不登校傾向のあった中途退学者」と「中途退学者全体」の比較

※3 埼玉県教育委員会「第5回高等学校中途退学追跡調査結果報告書」(令和2年度実施)をもとにキッズドアが作成
このデータから、中学校時代に不登校を経験し、高校を中途退学してしまう生徒には、次の3つの特徴が考えられます。
第一に、大きな課題に対して相談する人がいないこと
第二に、日常的に話せる人間関係やロールモデルがないこと
第三に、経済的困窮家庭が少なからず含まれていること
このことからも、不登校を経て中途退学する子ども達には、学校だけでなく、地域の関係者や活動団体も含めて、包括的な支援の必要性が見えてきます。
中学時代、不登校期間中に社会とつながることができたA君のケース
A君は、中学1年の夏休み明けから不登校となり、キッズドアの不登校支援事業につながりました。家庭は経済的に厳しく、フードパントリーの支援を受け、父親の強権的な態度に母親も子どもも支配されている環境でした。
A君は人の視線や言葉にかなり過敏で、前髪で顔を半分隠し、常にマスクをしていました。学校での様子を話す彼の言葉は荒々しく、心は閉ざされていました。
しかし、不登校支援の居場所に通い続けるうちに、少しずつ変化が見られました。「ここの大人は信頼していい、自分を認めてくれて付き合ってくれる」と感じ始めたA君は、スタッフと一緒に新たな活動にも挑戦、キャリアイベントにも足を運ぶようになりました。
現在、A君は高校に進学し、毎日通学しています。授業は難しく、特に英語が苦手ですが、テストも何とか乗り越えています。進路はまだぼんやりしていますが、大学進学を考えるまでに成長。時々キッズドアの居場所に顔を出し、学習や進路の相談をしながら、居場所学習会のボランティアとして中学生に提供した夕食の皿洗いも積極的に手伝っています。
A君のケースが示すように、不登校や長期欠席の子ども達には、学校だけでなく、地域や支援団体を含めた包括的な支援が必要です。背景には、A君のように貧困や家庭環境など、さまざまな要因があります。虐待や養育放棄(ネグレクト)、あるいはヤングケアラーとなっている可能性も潜んでいる場合もあります。私達は、子ども達が社会から孤立しないよう、見えにくい背景にも目を向けることが重要です。
「公衆衛生」の視点から見る不登校の問題
「公衆衛生」の視点とは、子どもの健康や教育、社会的な福祉を包括的に考えるアプローチです。
増え続ける不登校の問題を「公衆衛生」の視点で考えると、目指すべきは「子どもの心と体の健康を守り、不登校を防ぎ、教育を充実させることで、不登校の子どもが社会に戻れるよう支援し、学校全体の活力を高めること」です。 これは、不登校の子どもだけに焦点を当てるのではなく、すべての子どもの育つ環境を見直し、なぜ不登校が起きるのかを、社会課題としてしっかり理解することが大切だという意味です。
貧困や家庭環境、学業不適応など、その背景にはさまざまな要因があります。保護者への支援や家庭環境の改善、子どもとのコミュニケーションを促進することも重要です。まだまだ足りない、スクールカウンセラーやソーシャルワーカーの配置を増やし、子どもや保護者に対して、継続的にしっかり寄り添う支援も必要です。
それでも、不登校となってしまった子どもには、フリースクールやオンライン学習など学校以外の教育機会が必要です。不登校状態でどこにもつながっていない子どもを、孤立した状況に置かない、取り残さないための選択肢を増やすことが必要です。
不登校は高等学校で中途退学につながる可能性が高く、社会進出が制限される原因となります。その結果、「非正規就業」の増加や「貧困の連鎖」にもつながりかねません。特に高校は義務教育ではないため、学校と連携した支援が限られる現実があります。不登校の予防と支援は待ったなしの課題です。
私達は、日々「不登校の子どもと向き合うことが何につながっているのか」というマクロ的視点を持ちながら、これからも支援を続けていきたいと思います。
参考データ
※1)文部科学省「令和5年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査報告書」
※2)文部科学省「不登校に関する実態調査 ~平成18年度不登校生徒に関する追跡調査報告書~」(平成26年公開)
※3)埼玉県教育委員会「第5回高等学校中途退学追跡調査結果報告書」(令和2年度実施)
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