スタッフレポート
ひとり親世帯の貧困
家計の事情で部活動を諦める子ども達——拡大するスポーツ体験格差
中学入学と同時に増える家庭の負担
中学校でやりたい部活動があっても、金銭的な理由から諦めざるを得ない子ども達がいることをご存じでしょうか。
「中学生になったら〇〇部に入りたい!」と期待を胸に入学したものの、入部説明会で初めて「部活ってこんなにお金がかかるんですか?」と驚いた――。そんな声が、キッズドア・ファミリーサポートに登録しているご家庭から寄せられています。
文部科学省の調査(※1)によると、公立小学校から中学校に進学した場合、学校教育費などにかかる家庭の年間支出は、平均12万円から20万円へと約1.7倍に増えることが明らかになっています。特に中学1年生で必要となる費用は平均28万円にのぼり、中学3年間でかかる総額のほぼ半分を占めています。
表1.公立小中学校在学期間中の支出(学校教育費と学校給食費の合計)
| 小学校 6年間 |
中学校 3年間 |
|
| 在学中の支出 (年間平均支出) |
724,179円 (120,697円) |
599,000円 (200,000円) |
| 上記のうち、1年生の支出 | 199,266円 | 280,000円 |
※1) 文部科学省「令和5年度子供の学習費調査」のデータをもとにキッズドアが算出
こうした背景から、中学入学時には制服や通学カバンだけで平均10万円近い出費が発生し、さらに体育着や上履きなどを準備した後、ようやく落ち着いた頃に届くのが部活動の準備リストです。その想像以上の出費に気付いて、頭を抱える保護者は少なくありません。
そのため、「シューズや道具の購入を手助けしてほしい」「スポーツ用品の支援はありませんか」といった切実な声が、キッズドアに数多く寄せられています。
「親に負担をかけたくない」から部活を諦める子ども達
このような経済的事情から、やりたい部活動への入部を最初から諦めてしまう子ども達がいます。また、何とか入部できたとしても、用具の買い替えや遠征費が重なり、本当は続けたい気持ちがありながら、途中で退部せざるを得なくなるケースも少なくありません。
2023年夏、キッズドアが困窮子育て家庭を対象に実施したアンケート(※2)(1,538件回答、約9割が母子世帯、8割超が世帯年収300万円未満)では、中高生のいる家庭の約4割が、経済的理由から「部活動への入部を諦めた」「途中でやめた」「よりお金のかからない部活に変更した」と回答しました。
図1.経済的理由で部活動に影響した経験
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※2)キッズドア「2023夏物価高騰に係る緊急アンケート」をもとに作成(n=923)
子どもが部活動を続けられるかどうかが、意欲や適性ではなく、家計の状況に左右されている実態が浮き彫りになっています。
特に費用負担が大きい運動部
スポーツ系の部活動は、特に費用負担が大きくなりがちです。シューズや用具、練習着、ユニフォーム、冬場の防寒着などを買い揃える必要があります。
2021年に紹介されたある記事(※3)では、野球部に入部した息子さんの初年度の出費が次のようにまとめられています。
- トレーニングウェア : 約2万円
- ユニフォーム : 約2万円
- グローブ・バット・スパイク : 約5万円
- バッグやソックスなどの消耗品 : 約2万円
初年度の合計は約11万円。その後も体の成長によるサイズ変更や用具の消耗にともなう買い替えで、年間2万5千円以上の追加出費が発生したといいます。
加えて、練習試合や大会に伴う遠征費も必要になります。中学生になると交通費が大人料金となる場合も多く、1円単位で切り詰めた生活をしている経済的に厳しい家庭にとって、その負担は非常に重いものです。
キッズドアのアンケートにも、こうした現実を物語る切実な声が寄せられています。
野球用品は高く、なかなか買ってあげられません。お下がりのグローブを修理しながら使い、ズボンは穴が空くたびに膝あてをして2年間着続けています
部活の道具が欲しいと言われても買えません。メガネだと競技に支障があるためコンタクトを希望していますが、高価で毎日は使えず、部活を辞めさせるべきか悩んでいます
習い事はさせられない分、学校の部活だけは続けさせていますが、遠征時の電車代も厳しく、母子家庭の子ども向けの割引制度があればと思います
こうした状況の中で、「親に負担をかけたくないから」と、本当は続けたいスポーツを諦めざるを得ない子どもが生まれてしまうのです。部活動は、子どもにとって貴重な成長の機会である一方で、家計状況によって続けられるかどうかが左右されてしまう現実があるのです。
構造的に広がるスポーツ体験格差
近年、子どもを取り巻くスポーツ環境には、明確な「体験格差」が生じています。
野球やサッカーでは、小学生の頃から民間のクラブチームに所属する子どもが増える一方、中学校の運動部では部員が集まらず、試合が成立しない学校も少なくありません。
さらに、教員の働き方改革に伴って部活動の「地域移行」が進み、練習場所が学校外となるケースが増えています。送迎手段を確保できない家庭では、そもそも参加が難しくなり、民間指導者への謝金や施設利用料、保護者の当番など、新たな負担も発生しています。これらは、特に経済的に厳しい家庭には大きな障壁となっています。
加えて、少子化の影響により公立中学校では部活動の種類が減少しており、野球部やサッカー部が存在しない中学校も珍しくなくなっています。
今や、すべての子どもが中学校の部活動を当たり前のように選び、思い切りスポーツに打ち込める時代ではなくなりつつあります。
すべての子どもが夢を諦めない社会へ
部活動を続けられるかどうかが家庭の経済状況で左右される現状は、もはや個々の家庭の努力だけで解決できる問題ではありません。社会全体で支える仕組みが必要です。
キッズドアでは2025年度、東京ヤクルトスワローズの清水昇投手のご支援のもと、「中学で部活を諦めない!奨学金」を実施しました。この奨学金は、シューズや用具、ユニフォームなど、入部時に必要となる初期費用を支援するものです。清水選手の「誰でも好きな部活ができる社会を子ども達に届けたい」という思いが込められています。
子ども達の「やってみたい」という気持ちが家庭環境によって奪われないよう、社会全体で支える仕組みがいま求められています。
キッズドアはこれからも、さまざまな家庭支援を通じて、経済的な理由で夢を諦めなくてよい社会を目指し、子ども達一人ひとりの可能性を支え続けていきます。
参考データ
※1)文部科学省「令和5年度子供の学習費調査」
※2)キッズドア「2023夏物価高騰に係る緊急アンケート」
※3)マネーの達人
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