スタッフレポート
子どもの貧困
学用品が買えない子ども達——「義務教育は無償」の幻想。見過ごされている教育費の壁
新学期を迎えて子ども達が抱える不安
新学期を迎え、街には真新しいランドセルを背負った子ども達の笑顔があふれています。しかし、その裏側では、新しい生活に対する不安とはまた違った「不安」を持つ子ども達がいることをご存知でしょうか。
たとえば、キッズドアの学習会の中でも、子ども達からこんな声が聞こえてきます。
「周りの子はみんな新しいランドセルや文房具を持っているのに、自分だけ古いものを使っている」
「体操服を買ってもらえず、授業に参加できなくて恥ずかしい思いをしている」
なぜ、こうした思いをする子ども達がいるのでしょうか。その背景には、見過ごされている “教育費の壁”があります。
公立学校在学中の支出と貧困世帯の状況
文部科学省の調査によると、2023年の公立学校(小中学校及び高等学校)在学中における学用品、制服、通学費などの支出は、想像以上に高額です。
表1.公立学校在学期間中の学用品や通学費などの支出
小学校 6年間 |
中学校 3年間 |
高等学校 全日制3年間 |
|
在学中の支出 (うち、1年生の支出) |
399,512円 (143,698円) |
466,000円 (247,000円) |
772,000円 (384,000円) |
年間平均支出 | 66,585円 | 153,333円 | 257,333円 |
※1 文部科学省「令和5年度子供の学習費調査」のデータをもとにキッズドアが算出
(学校教育費のうち次の項目を抜粋し集計:教科書費・教科書以外の図書費、学用品・実験実習材料費、教科外活動費、通学費、制服、通学用品費、その他)
義務教育期間である小学校や中学校でさえ、進学時には特に大きな費用負担が発生します。このような支出を貧困世帯は捻出することが可能なのでしょうか。
厚生労働省の調査によると、2022年の貧困世帯の年収は下の表の通りとなっています。月の手取り収入が10万円ほどの中でやりくりをしている状況が見て取れます。
表2.貧困世帯の所得
1人世帯 | 2人世帯 | 3人世帯 | 4人世帯 | |
相対的貧困 | 127万円 | 180万円 | 220万円 | 254万円 |
中央値 | 254万円 | 359万円 | 440万円 | 508万円 |
※2 厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況」をもとにキッズドアが算出
この限られた収入の中で、家賃や水道光熱費、食費、被服費をまかないながら、さらに学用品や通学費などを捻出するのは非常に厳しいのではないでしょうか。特に進学時には、ランドセルや制服、体操着といった必需品の購入でまとまった支出が発生します。貯蓄がない家庭にとって、これらの費用を準備することは容易ではありません。
貧困世帯の学用品購入への自治体の支援の状況
経済的に困難な家庭の子ども達を支援するために、自治体には「就学援助制度」があります。これは、生活保護を受けている家庭や、それに準ずる所得水準と認定された家庭を対象に、学用品などの購入を補助する制度です。
しかし、この制度には大きな課題があります。それは、学用品等を購入する時期と、実際に支援金が支給される時期に大きなズレがあるということです。支給時期は自治体によって異なりますが、年2回から4回に分けて支給されることが多く、進学時のまとまった支出には対応しづらいのが現状です。
たとえば、新学期の準備に必要なランドセルや制服、体操着は、入学前に購入しなければなりません。しかし、就学援助の支給が入学後になってしまう自治体もあり、結局のところ、支援制度があっても、一定の貯蓄がない家庭では必要なものをすぐに揃えられないという状況が生じています。これにより、経済的に厳しい家庭の子ども達が、他の子ども達と同じスタートラインに立つことが難しくなっているのです。

奪われてしまう学びの機会
学用品が揃わないという問題は、単に「物がない」という問題だけではありません。それは、子ども達の学びの機会そのものを奪うことにつながります。必要な文房具がなければ、課題に取り組むことが難しくなります。体育の授業に必要な体操服や、図工の授業に必要な絵の具セットが用意できず、授業に参加すること自体をためらってしまう子どももいます。こうした経験が積み重なることで、
「自分は授業についていけない」「周りと違う」
という疎外感を抱き、学校そのものに苦手意識を持ってしまうこともあります。
さらに、十分な教育を受けられないことは、将来の選択肢を狭めることにもつながります。貧困の連鎖を断ち切るためには、すべての子ども達が経済状況に左右されることなく、平等に教育を受けられる環境を整えることが不可欠です。
周囲の無理解と孤立
貧困家庭の子ども達は、学用品が買えないという経済的な困難だけでなく、周囲の無理解や偏見に苦しむこともあります。
「どうして新しいものを持っていないの?」 「親に買ってもらえないの?」
何気なく発せられた言葉が、子ども達の心に深い傷を残すことがあります。さらに、持ち物の違いが原因で仲間外れにされたり、いじめの対象になったりするケースも報告されています。
このような環境の中で、子ども達は孤立し、精神的な負担を抱え込むことになります。悩みを誰にも相談できず、一人で抱え込んでしまう子どもも少なくありません。
今、私達にできること
貧困家庭の子ども達が抱える“学用品が購入できない”という問題は、決して他人事ではありません。私達一人ひとりがこの問題に関心を持ち、できることから行動していく必要があります。キッズドアでは、学用品を揃えられない子ども達に対し、学習支援や居場所支援を通して、学用品などの提供も実施しています。
子ども達は今後の日本を担っていく大事な宝のような存在です。すべての子どもが家庭環境に関わらず、十分な教育を受けて夢や希望を持てる社会だと感じてもらえるように私達キッズドアと一緒に、活動いただけないでしょうか。ぜひ、できる範囲から一緒に活動いただけることを願っています。
参考データ
※1)文部科学省「令和5年度子供の学習費調査」
※2)厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況」II-6
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【子どもを取り巻く課題】
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