スタッフレポート
子どもの貧困
ひとり親世帯の貧困
貧困バッシングの先で傷つく子ども達――「助けて」と言うことが責められる社会
声を上げづらい社会
「ひとり親は社会に迷惑をかける邪魔者なんじゃないか、とずっと肩身の狭い思いをしていました。キッズドアさんのクラウドファンディングの応援コメントを見て、世の中には、ひとり親に対してこんなに優しい人がたくさんいるんだと知って、嬉しくてちょっと涙が出ました」
これは、キッズドアに届いたあるシングルマザーの声です。こうした声は決して特別ではありません。ただ、「大変ですね」「頑張ってください」というコメントを見ただけで泣いてしまうほど、日本で貧困と呼ばれる状況にある人達は、疎外感や自己否定感を抱えています。
2026年1月6日、大変痛ましい事件が福岡で起きました。30代の母親と、小学生と未就学児の姉弟2人の無理心中です。発見のきっかけは3ヶ月分の家賃滞納でした。無理心中は決して許されるものではありません。「どうして、誰かに相談してくれなかったのか」と悔やまずにはいられません。このお母さんも、「生活が大変だから助けてほしい」と声を上げたら、責められるのではないか、と恐れたのかもしれません。
声を上げづらい社会は、ときに取り返しのつかない悲劇を生んでしまいます。
キッズドアが活動を始めたばかりの頃、こんな話も聞きました。
「私はひとり親で手当をもらっています。娘が好きなアーティストのために、お小遣いを一生懸命貯めて、初めてコンサートに行ったら、『あの家は手当を受けているのに、子どもがコンサートに行っている』と役所に通報されてしまいました」
支援を受けているのだから、人並みの生活をしてはいけない。貧困な人は貧困らしく、惨めな生活をしていなければ……とでもいう考え方を持つ方がいらっしゃることに驚きました。
日本で起きている「貧困バッシング」とは
日本には「貧困バッシング」があります。「貧困バッシング」とは、貧困な人は怠けているから貧困なんだ、とか、貧困なのは自己責任である、というような考え方で、貧困状態にある人々や公的支援を受けている人に対して、非難・攻撃・差別的な言動を向ける社会的な風潮のことです。
そして、それが行きすぎて、貧困な人や貧困家庭の子どもには何を言っても、傷つけてもいいんだ、人権なんてないんだ、とでも言うような酷い言葉を使う人がいます。
こうした言葉は、当事者を深く傷つけ、追い詰めます。弱い人をいじめることで、スッキリするのでしょうか? 貧困な状態にある人は自分のイライラをぶつけるサンドバッグにしてもいいとでも思っているのでしょうか?
働いても貧困から抜け出せない日本の構造
厚生労働省「国民生活基礎調査」(2022年)によると、日本の子どもの相対的貧困率は11.5%ですが、ひとり親に限ると44.5%と、およそ半分は貧困です。つまり、ひとり親家庭の2人に1人が貧困状態です(※1)。しかし母子家庭の就労率は86.3%と非常に高いのです(※2)。ほとんどの母親が働いているにもかかわらず、貧困から抜け出せていません。

皆さん働いているのに、十分な給料を得られていない、ワーキングプアです。子どもがいるから正社員にしてもらえない、女だから給料が低い、こんな不条理が長年続いています。最低時給のパートをいくつも掛け持ちする。最近は、スポットバイトができるようになったので、年末年始の休みにも別の仕事を入れる、夏休みは子どもを朝起こさなくてもいいので早朝の仕事を入れる。そんな働き方をしても、時給千円ちょっとでは、全く暮らしは楽になりません。そこから税金も社会保険料も引かれるのです。
さらに、厚生労働省「令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」によれば、7割以上の方が養育費を受け取っていません(※3)。諸外国では養育費の立替払い制度や払わないことへの罰則がありますが、日本では今だにその議論が進みません。
日本の貧困は、決して怠けているとか、働いていないということではなく、社会構造の問題です。
自ら我慢を強いる子ども達
2025年の夏休み。シングルマザーのお母さんは仕事で家を出る前に、「暑いんだからちゃんとエアコンをつけておきなさいね」と子ども達に言って出るのに、子どもが「エアコンをつけると来月の電気代が上がってお母さんが大変だから」とエアコンを切って熱中症になってしまった、というような方がたくさんいました。
子どもが、部活で野球を頑張っていたけれど、毎週の遠征の交通費を出すのが大変で、「来週は〇〇高校で練習試合だから交通費がかかる」と言いづらそうに言っていた息子が、知らない間に部活を辞めてアルバイトを始めていた、という話もありました。お金がないから大学進学は諦めた、というような話は山ほどあります。
私達が、困窮家庭のお母さんにお願いするアンケートには、このような切ない声がたくさん、たくさん寄せられます。自分の地元では言えない、知り合いには言えないけれど、本当は言いたいことがたくさんあるのです。
子どもの命が危機に晒され、将来の夢を諦める、本当なら子ども達のために、「もう少し支援をしてください」「せめて十分な栄養を取れるようにして欲しい」と声を上げたいのに、バッシングが怖くて声を上げられない。子どもも同じです。バッシングを恐れて、さらにお母さんを困らせないように、我慢します。
おかずが無くて、ふりかけも買えないお母さんに「俺、塩かけご飯が好きだから」と言わせる、「もうサッカーに興味ないから部活やめる」と言わせる、それを言わせているのは、貧困バッシングを止めさせられないこの社会です。
貧困バッシングを止めるために、私達にできること
私達は、貧困バッシングは無くすべきだと思います。貧困バッシングに対して声をあげ、止めさせる努力を社会全体でしていきたいと思います。
私達一人ひとりができることは、まだまだたくさんあります。
貧困バッシングをしている人に、それは違う、それは酷いと声を上げることも大事な支援だと考えます。その小さな声が、困っている誰かの「助けて」と言える勇気につながり、子ども達の命や未来を守る一歩になるかもしれません。
参考データ
※1)厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況」II-6
※2)男女共同参画局「男女共同参画白書 令和5年版」6分野 6-2表
※3)厚生労働省「令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」
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