インタビュー

子どもの貧困

教育格差

ひとり親世帯の貧困

継続的に活動することが子どものためになる ── NPOの中間支援最前線

一般的に、ボランティアやNPO法人などの活動をサポートする役割を『中間支援機能』と呼び、この機能を持つ組織は『中間支援組織』と称されている。2021年、キッズドアは全国の子ども支援団体をサポートするため、自らのノウハウを提供する研修事業を中間支援として開始した。
今回は、その事業責任者である玉木に、参加団体の現状やその先にいる子ども達について話を聞いた。

※内容は取材当時(2024年8月時点)のものでプライバシー保護のため一部加工・編集

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研修で講師を務める玉木

玉木 絵梨(たまき えり)
学習支援のノウハウを、全国の子ども支援団体に伝える研修事業の責任者。国の補助金や休眠預金などの資金分配事業も担当。大学在学中の2015年よりアルバイトとしてキッズドアに関わり始め、2016年4月に入職。


「勉強したいのにできない社会っておかしいよね」

一度は諦めた大学進学への道

玉木は、新卒で入職する前に、一度社会人を経験している。

「ひとり親家庭で育ったので、親に負担をかけたくなくて、大学に行きたいとは言い出せませんでした。だから、奨学金を借りて、昼間にアルバイトをしながら学費を稼げる夜間の専門学校に進学したんです」

専門学校を卒業し、社会人として働き始めたものの、彼女の心には大学進学への思いが再び芽生えた。

「大卒ではないことで仕事の選択肢が狭まることを痛感しました。そこで、もう一度大学を目指そうと決意したんですが、経済的な理由で予備校には通えず、独学での勉強は本当に大変でした」

アルバイトをしないと生活ができなかった

念願の大学入学を果たした玉木だが、専門学校と大学のために借りた奨学金は、総額約600万円に上っていた。加えて、地方から出てきた彼女には一人暮らしの生活費や家賃ものしかかった。

「入学後はアルバイト漬けの日々で、まるでアルバイトをするために大学に行ったような感じでした。思い描いていた大学生活とはまるで違って、厳しい毎日でした」

その過酷な生活は、人間関係にも影響を与えた。

「アルバイトのせいで時間がなくて、同級生と飲みに行く機会もほとんどありませんでした。授業の空き時間は課題に追われ、仲の良い友達を作る余裕もなかったんです」

そんな日々を送っていたある日、大学の講義でキッズドアの理事長渡辺と出会う。

「渡辺さんが子どもの貧困問題について話をする中で言った『勉強したいのにできない社会って、おかしいよね』という言葉にとても共感したんです」

自分と同じような環境にいる “勉強したいのに叶わない” 子ども達の力になりたいという思いが玉木を突き動かした。彼女はキッズドアでアルバイトを始め、その後入職に至った。

自分には奨学金を借りてまで大学に行く価値があるのか?

玉木は、キッズドアがただ学習支援を行うだけでなく、奨学金など進学に関する相談ができる場であることに大きな意義を感じている。

「当時の私は、奨学金の探し方も知らなかったですし、探す時間もありませんでした。何より、相談できる人がいなかったんです」

“もし、高校卒業時に400万円の奨学金を約束されていたら、迷わず大学に進学をしていたのか?” と、玉木に投げかけてみた。

「約束されていたとしても、18歳の私には400万円という借金を背負う覚悟はできなかったと思います。奨学金って自分の未来への投資だと思うんです。相談する場がない私には、400万円もの奨学金を借りてまで大学に行く価値が自分にあると確信できなかったと思います。だから、一度社会人になって大学進学を決断するステップが必要だったように感じます」

多額の奨学金を借りるためには、自分の未来に期待し、その期待を支えてくれる存在が不可欠なのかもしれない。玉木の言葉は、そんなことを考えさせる。

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キッズドアのノウハウを全国へ届ける

より多くの子ども達を支援するために

入職後、玉木は中学生を対象とした居場所支援に携わり、子ども達が高校に進学した後も引き続き見守ってきた。その経験を活かし、現在はキッズドアの研修事業を率いている。この事業では、全国の子ども支援団体に向けて、オンライン研修を無料で提供している。

「子どもの貧困は東京だけの問題ではなく、日本全体に存在している深刻な課題です。キッズドアがこれまで培ってきた学習支援のノウハウを他の団体と共有すれば、もっと多くの子どもたちを支援できると考えました」

研修事業を始めた当初、玉木は “何かを教えなければ” という強い使命感に駆られていた。しかし、研修を重ねるごとにその考えは変わっていった。

「ネットワークの重要性に気付いたんです。様々な強みがある参加団体同士が情報を提供し合うことで、それぞれが学び合える場になり、悩みを共有することで前向きに頑張る気持ちが生まれています」

この研修には、過去3年間で全国から約200団体が参加。参加団体とはLINEでつながり、助成金や子どものイベント情報を共有し、継続的な支援体制を整えている。

勉強ができない理由は貧困だけではない

この研修に参加する団体は、さまざまな困難を抱える子どもたちを支援している。最近では、支援の対象は貧困家庭の子どもに限らない団体も増えているという。

「例えば、兄妹格差がある家庭では、お兄ちゃんには親が塾や教育費を惜しみなく出すけど、妹には『女だから大学に行かなくていい』と言って、勉強を諦めさせるケースもあります。他にも、兄弟が多い家庭では、上の子はしっかり教育を受けられても、父親が転職したことで下の子は塾に通わせてもらえない、ということもあるんです」

勉強ができない環境となっている原因は、単に家庭の収入だけではない。それぞれの子どもが抱える状況は多種多様だ。そうした現状を理解し、間口を広げて柔軟に対応するNPOが全国で活躍している。

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研修の様子


「なんでなくなっちゃうの?」

NPOが抱える厳しい現実

しかし、子ども支援団体が継続して活動するのは非常に難しい現実がある。玉木も、この研修を通じて知り合った団体から “資金難で続けられなくなった” という電話を受けたことがある。

「子ども達から『なんでなくなっちゃうの?』『もっとやってほしい!』といった声がたくさんあるのに、活動を終わらせなければならない状況に、その団体の方はとても悲しんでいました」

玉木が研修事業を通じて最も痛感したのは、多くの団体が抱える最大の課題は “資金不足” ということだ。

「どれだけ素晴らしい学習会であっても、学びが身につかないうちに終わってしまったら子どものためになりません。だからこそ、団体が継続的に活動できるようにサポートすることが、最終的には子どものためになると思います」

前述の団体は、その後支援者を見つけ、再び活動を再開することができた。

「電話で『もう一度立ち上げられることになった』と、泣きながら報告してくれました。先日、その団体の活動紹介動画を見たのですが、子ども達が笑顔で楽しそうに過ごしている姿を見て、本当に嬉しかったです」

━ 時間と心の余裕も大切

玉木は、資金面だけでなく「時間と心の余裕」も重要な要素だと指摘する。

「少人数で活動している団体も多く、目の前の子ども達の問題に対応しながら、資金繰りなどの運営も考えなければならない。労力はかかるし、時間も全く足りないと思います」

このような状況だからこそ、研修を通じて支援団体同士がネットワークを持つことが大きな力になるという。

「例えば、子どもの送迎を始める際に、他の団体に相談すると、保険の手続きや注意すべき点など、実際の失敗事例も含めて教えてもらえるんです。ゼロから準備しなくてもよくなります」

ちょっと先の未来にいるキッズドアや他の団体が、ノウハウ・ツール・マニュアルを含む情報を共有することで、準備にかかる時間が短縮され、一気に道が開けた分、子ども達により多くの時間を割くことができるようになる。

「お母さんがハッピーだと子どももハッピーであるように、子ども達の一番近くにいる支援者が余裕をもって生き生きと接することが、子ども達にとって最も大切だと思います」

団体同士が情報を共有し合えるネットワークは、子ども支援において計り知れない価値を持っている。

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研修に参加した団体の方達と


みんなで社会を変えるために

━ 支援の輪を広げ、持続可能な活動へ

玉木に、この研修事業においてこれから取り組んでみたいことを聞いてみた。


「もっと多くの団体とつながりたいです。キッズドアで約10年活動してきて、児童扶養手当の増額や大学無償化など、社会が変わっていく現場を見てきました。そういった社会課題の解決のために、多くの支援団体同士が協力し提言する場があれば、みんなで社会を変えることができると思います」


また、子ども達に途切れない支援を届けるために、NPOが安定的に活動できる仕組みを作りたいという想いも口にした。


「大きな助成金は、主に新規事業向けで縛りが多いんです。しかも1年で終わってしまうこともあります。小規模な団体が助成を受けるのは難しいのが実状です。重要な既存事業をもっと助成できるようになるといいのですが…。安定して活動できる更なる仕組みが必要です」

━ ネットワークの力

研修を通じて生まれた団体同士の交流は、玉木にとって大きな喜びのひとつだ。北海道の団体が沖縄の団体に雪を送ったり、沖縄の団体が北海道にサーターアンダギーを届けたりなど、地域を越えた温かいつながりが広がっている。


「初めて雪を見た沖縄の子ども達が大興奮している様子を、活動紹介動画で見た時は本当に嬉しかったです。団体同士が仲良く交流しているのを見ると、このネットワークの力を実感します」


玉木は、こうしたつながりを通じて、より多くの子どもたちが安心して過ごせる場がもっと増えていくことを願っている。

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Achievements

長年続けてきた活動が、
確実に実を結んでいます。

  • 学習支援を届けた生徒

    2,078

    2023年度の実績

  • 開催した学習会

    5,949

    2023年度の実績

  • 支援を届けた子どもと親

    603,860

    2023年度 情報・物資等支援 延べ人数

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