インタビュー
子どもの貧困
教育格差
ひとり親世帯の貧困
子ども達は様々な大人との出会いで成長する ── 学習支援最前線
キッズドアは、自主事業として運営する参加費無料の学習会の他に、行政から委託された学習会の運営も行っている。
その支援対象者は、行政ごとに異なるが、おおむね(1)生活保護を含む就学援助世帯 (2)ひとり親世帯(児童扶養手当受給世帯)など、貧困世帯・生活困窮世帯の子ども達だ。
現在、行政から委託を受けた学習支援事業の責任者を務める桑田に、生徒達の様子を聞いた。
※内容は取材当時(2024年10月時点)のものでプライバシー保護のため一部加工・編集
ある学習会で生徒を担当する桑田
桑田 美季(くわた みき)
行政から委託された困窮世帯の小中高校生向け学習支援事業の責任者。前職では文部科学省で複数の教育関連部署を経験し、学校教育だけでは支援が難しい子どもたちの存在を実感。教育と福祉の両面から子どもと直接関わる場で支援をしたいと思い2022年4月に入職。
教育と福祉の両面からの支援が必要
━ 楽しく学校で勉強できる環境を作りたい
キッズドアに入職する前、桑田は文部科学省で教育関連部署に携わっていた。教育の道を志した理由をたずねると、彼女はこう答えた。
「私自身、学校が好きではなかったからです」
普通の公立小中学校に通っていたが、厳しい校則や重い上下関係が肌に合わず、頼れる先生もいなかった。そのため、中学3年生の頃は学校に行けない時期も経験したという。
「だからこそ、今の子ども達には楽しく学べる学校環境を提供したいと思ったんです」
と、桑田は教育の道を選んだ理由を明かした。
━ 学校教育だけでは対応できない子ども達がいる
文部科学省で複数の教育関連部署を経験する中で、桑田は学校教育の枠内だけでは支えきれない子ども達の存在が気になり始めた。さまざまな理由で不登校や中退を経験したり、日本語支援が必要な子ども達など、学校内では支援しきれない状況にあることを実感したのだ。
「そもそも勉強どころではない子や、生活全般に支援が必要な子もいます。教育と福祉の両面から支援する必要があると感じました」
以前から子ども達と直接向き合いたいと考えていたこともあり、こうして、桑田はキッズドアへの入職を決意した。
子どもに寄り添い耳を傾ける大人の存在
━ 最長9年間を伴走する学習支援
現在桑田は、行政から委託を受けた複数の学習会で責任者を務めている。参加するのは、母子世帯や多子世帯の子ども達など様々だ。
生徒達は宿題や学校のドリルなどを持参し、ボランティアスタッフと1対1、もしくは2対1で勉強に取り組んでいる。桑田が担当するある行政区のひとつでは、小学4年生から高校3年生まで小・中・高それぞれに向けた学習会が用意されていて、成長に応じて長期間通い続ける生徒も少なくない。
「最長9年は長いですよね。成人が18歳と考えると、その半分の期間です。子どもが大きく成長する時期を伴走するというのは、その子の人生を垣間見させていただくようで、とても有難い仕事だと思います」
学習会に継続して通う生徒達とは進級や進学を経ても関係が続くため、学校とは違う長期間のコミュニケーションが可能になる。
━ 足かけ3年で変化を積み重ねる
学習会に通う生徒の中には、大人への警戒心が非常に強い子もいるという。桑田が印象に残っている支援した生徒の一人として、ある小学生について教えてくれた。
「その生徒は最初、私が会った途端『あっち行け!』と言うほど警戒心が強い子でした。スタッフ全員が毎回根気強くその生徒に関わり、興味・関心があることの話題に触れたり、トランプなどのゲームで少しずつ心を開けるようにしていきました」
そうしているうちに、その生徒の態度も次第に柔らかくなっていった。ある日、その生徒が自分の考えをみんなの前で発表する機会があり、その内容を多くの大人が認めたところ、自信が芽生えたのか、前向きな姿勢が生まれていったという。
「それをきっかけに、みるみる表情が明るくなって、周囲との関わり方も社交的に変わっていきました。自主的に勉強に取り組むようになり、難しい問題にも諦めずに向かえるようになりました。1年間ではなかなかこうはいかないですよね。足かけ3年で積み重ねてきた変化です」
生徒の警戒心を解くには時間がかかるが、スタッフ側にも忍耐強さが求められる。
「この生徒が警戒心を持ちながらも学習会に通い続けてくれて、本当に良かったと思いました」
そう話す桑田は、顔をほころばせた。
━ 学校と家庭での困難を乗り越えた生徒
さらに桑田は、中学生から高校生にかけて支援をして、学校と家庭での困難を乗り越えた生徒のエピソードを教えてくれた。
「その生徒は高校には進学できたのですが、友人関係がうまくいかなくて学校に行けなくなってしまいました。留年や転校の可能性も考えましたが、親からはそのための学費は出せないと言われてしまって…どうしたら良いのか八方ふさがりでした」
家庭では、母親との2人暮らし。学校に登校できないことがきっかけに喧嘩が絶えないという状態だったという。
学習会に通いながらも、その生徒は家庭のストレスが溜まると “家に帰りたくない” と長居することが増えていった。学習会のスタッフもそのたびにできる限り時間をとって寄り添い続けたという。また、その生徒が中学時代に心を開いていたボランティアスタッフが、その生徒のために駆けつけ、話を聞いてくれることもあった。
こうした支えの中で、すこしずつ心を立て直し、再び学校に通えるようになっていった。そして家庭でも次第に落ち着きを取り戻していった。
「本当に厳しい時期だったと思いますが、みんなでメンタル面を支え続けることで、一緒に乗り越えることができたと思います。やっぱりボランティアさんの力はとても大きくて、長く関わってくれるからこそできる支援です」
生徒が困ったときには学習会をまたいで支えようとしてくれる人がいるのも、小中高と支援が続く学習会ならではの強みだろう。
学習会終了後の様子(ボランティアスタッフとその日の生徒の様子を共有する)
学習会終了後の様子(ある生徒の指導法についてディスカッションする)
子ども達の未来を拓く、大人達との出会い
━ 熱い応援が子どもを動かす瞬間
子ども達に寄り添う大人の存在には、長期的で忍耐強い支援が求められる。しかし、“どんなタイプの大人が関わるか” もまた大切だと桑田は言う。ある中学生の生徒は、ボランティアスタッフから “絶対キミならできるから!” と全力で応援され、その言葉がきっかけで変わり始めた。
「誰にでも響く応援の形があるわけではありませんが、その生徒にとっての『心のボタン』を押す言葉は大きな力になります。その生徒には、勢いのある励ましの言葉が心に火を灯したのだと思います」
ときには、熱血な声かけが “うざい” と思う子もいるだろうし、怖いと思う子もいるだろう。今、目の前の子どもに必要な言葉を考えながら関わってくれるボランティアスタッフは頼もしい存在だ。
━ 一人ひとり違う関わりから生まれる変化
「ボランティアさんと生徒の関係は、良し悪しや好き嫌いというよりも、隣にいて心を開くことができるとか、勉強する気持ちになれるとか、彼らの『心のボタン』を押せる存在かどうかが重要だと思います」
一人ひとり違う子ども達には、それぞれ異なる “心のボタン” がある。いろいろなコミュニケーションスタイルで子どもの “心のボタン” を押すために、多様な大人が求められているのだ。現在は、平日夕方に開催される学習会のボランティアスタッフが足りていないという。
「特別なスキルや資格がなくても、子どもにとってはその存在が何より大切です。特別な誰かではなく、みなさんが必要とされています」
桑田は最後に、生徒のコメントも紹介してくれた。
《 学習会に通う中学生のコメント 》
いろいろな話をしながら、分からないところをわかりやすく教えてくれるので、勉強が嫌いだった私も『勉強する意味』が少しずつ見えてきました。そのおかげで、期末や中間テストの時には1日3時間も勉強できるようになりました!
どのスタッフとの出会いがきっかけで生徒が大きく成長していくのか、桑田は楽しみにしていると話してくれた。
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【シリーズインタビュー記事】
- #07 子ども達は様々な大人との出会いで成長する
- #06 継続的に活動することが子どものためになる
- #05 子どもの居場所には地域の課題を解決する可能性がある
- #04 英語学習は格差が表れやすい
- #03 準貧困層は行政の支援の網からこぼれ落ちている
- #02 受講生を増やしても、全国に支援はまだ届いていない
- #01 僕は、今の時代こそ居場所が必要だと思う
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