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子どもの貧困

教育格差

模試を受けられない子ども達——経済格差が生む教育格差

見過ごされがちな「模試を受けられない」という問題

キッズドアは、設立以来、首都圏を中心に経済的に厳しい家庭の子ども達への学習支援に取り組んできました。とくに近年は、行政の支援が届きにくい高校生世代へのサポートに力を入れています。


大学受験を目指す高校生達は、ただでさえ複雑な受験制度を理解し、進路を自ら選ばなければなりません。しかし、家庭の経済状況によっては、塾に通えない、受験情報が得られない、受験校を絞らなければならない、受験料や進学費用を捻出できないといった、目に見えにくいハンディキャップをいくつも抱えています。


そのなかでも特に見過ごされがちなのが、「模試を受けられない」という教育格差です。模試の受験料が払えないため受験回数が限られてしまう――そんな子ども達が、今、確かに存在しています。この「模試を受けられない」問題は、受験生にどのような影響を与えるのでしょうか。

模試受験料の値上がりと家計の負担

大学受験を控えた高校3年生にとって、月に1回、年間10回ほど模試を受けるのが一般的です。これは、自分の学力を客観的に把握し、志望校の合格率を知るための、大切な機会です。


しかし、近年その模試の受験料も値上がりを続けています。たとえば、河合塾の「全統共通テスト模試」は8,600円、駿台予備校の「駿台模試」は7,500円前後。比較的安価とされるベネッセの「進研模試」でも、1回あたり4,300円の費用がかかります。


これらを複数回受けるとなると、模試だけで年間7~8万円にものぼります。年収200万円前後で暮らす経済的困窮家庭にとって、大きな負担になります。子どもに模試を受けさせたくても、「受けさせてあげられない」「回数を減らさざるを得ない」という現実に直面するご家庭が少なくないのです。


模試の回数を減らす。それは、ただの模試の機会損失ではなく、さまざまな見えにくい機会の損失が存在します。

模試を受けられないことが生む3つの損失

「模試なんて受けなくても、問題ないのでは?」と思われる方もいるかもしれません。
しかし、模試を受けられないことは、受験において大きなハンディキャップとなります。そこには、目に見えにくい3つの“機会の損失”があるのです。

まず一つ目は、「自分の現在地がわからない」こと。
大学受験は全国の高校生がライバルとなります。模試を通じて初めて、自分の学力がどの位置にあるのか、志望校に届く可能性がどれくらいあるのかを客観的に知ることができます。


しかし、模試を受けられない生徒は、学校内の成績でしか自分の学力を判断できません。その中には、家庭の経済的な事情から、本来の学力よりもはるかに低い偏差値の(確実に合格できる)公立高校に進学せざるを得なかった生徒が多くいます。その結果、周囲との差から自分の学力を過大評価してしまい、模試で正確な実力を把握しないまま大学受験に挑んでしまうケースが少なくありません。


二つ目は、「自分の弱点を見逃してしまう」こと。

塾に通えない受験生は、基本的に自学自習で勉強を進めます。一人で勉強をしていると、得意な(好きな)科目ばかりを勉強して、苦手な(嫌いな)科目の勉強を疎かにするケースはよく見られます。模試は、どの教科・どの単元が苦手かを明らかにし、限られた時間の中で効率よく対策を立てるための重要なツールなのです。


三つ目は、「本番慣れができない」こと。

本命大学の受験日に100%の力を出し切るためにも、滑り止めの大学を何校か受験することが良いとされています。しかし、経済的困窮家庭の受験生は、多くの受験校を受けることはできません。そうした生徒にこそ、多くの模試を受けて「受験に慣れる」必要があると言えるでしょう。


模試はただのテストではなく、時間配分や緊張感に慣れるための“本番の予行演習”でもあります。経済的な事情で私立大学の併願が難しい生徒ほど、入試本番で一発勝負になる可能性が高く、模試で場数を踏むことが本来はとても重要なのです。


模試を受けられないというただ一点だけでも、受験生の可能性は大きく狭められてしまう――それが、私達が見過ごしてはならない現実です。

模試を受けられなかった受験生の現実

キッズドアに通っていたA君のケースをご紹介します。
A君は、小学4年生からキッズドアに通っていました。起立性調節障害の影響で学校に通うことができず、高卒認定試験(旧大検)を経て大学進学を目指していました。勉強熱心で呑み込みが早く、支援していたボランティア講師からも「第一志望は難しくとも、ランクを下げて何校か受ければ確実にどこかには受かるだろう」と評価されていた生徒でした。


しかし、A君はシングルマザーの母親と二人暮らしで金銭的に余裕がなく、模試はキッズドアが費用を全額負担した夏の2回のみ。大学の出願も、必要最低限の数にとどめざるを得ませんでした。


結果は、残念ながら受験したすべての大学で不合格。模試を夏以降受けられなかったことで、自分の学力を正確に把握することができずに受験校選びに失敗したことや、受験経験の少なさから、本番の緊張に押されて実力を十分に発揮できなかったことが要因と考えられます。


経済的事情で浪人ができないA君は、現在、通信制大学に進学し、自分なりの道を歩んでいます。でも、もっと模試を受けられさえすれば、彼の人生は違った形になっていたかもしれません。

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「見えにくいハンディキャップ」をなくすために

子どもの貧困は、「見えない貧困」と呼ばれています。
進学の機会そのものは、奨学金の拡充や高校授業料の無償化などで、経済的困窮家庭の子ども達も大学受験をすることができるようになってきました。


しかしその一方で、「塾に通えない」「模試を受けられない」といった、見えにくいハンディキャップがまだまだ存在します。


模試をあと1回受けることができたら、受験前に克服すべき弱点に気づけたかもしれない……。

もし受験に慣れる機会がもっとあったなら、自信を持って本番に臨めたかもしれない……。
あともう1校出願できていたら、合格できたかもしれない……。


経済的理由から生まれる子ども達のハンディキャップを少しでも取り除き、子ども達が自分の願う進路に進めるように――。これからもキッズドアは活動を続けていきます。


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