スタッフレポート
ひとり親世帯の貧困
養育費の受け取り率はわずか28%——養育費未払いが招く母子世帯の深刻な貧困
養育費が支払われない日本
養育費とは、離婚や別居をした親が、子どもを育てるために必要な生活費・教育費などを負担するために支払うお金のことです。一般的には、子どもが経済的・社会的に自立するまでにかかる費用のことで、衣食住に必要な経費や教育費、医療費などが含まれます(※1)。金額は、親同士の話し合いで決めるのが基本ですが、その際には、「算定表」(※2)が参考にされます。ただし専門家の間では、この国の定める法定養育費は、子どもの成長を十分に支えるためには不十分であるとの指摘もあります。
日本では、養育費の支払い率が諸外国と比べて非常に低く、これが母子世帯の貧困率を押し上げる一因となっていると指摘されています。特に、先進国の中でも日本の母子世帯の貧困率は最も高い水準にあり、養育費の不払いがその背景にある重要な要素とされています。
厚生労働省の「令和3年度全国ひとり親世帯等調査」(※3)によると、母子世帯のうち、養育費の取り決めをしている割合は46.7%に止まります。取り決めをしていない理由で最も多かったのは「相手と関わりたくない」で、次いで「相手に支払う意思がないと思った」、「相手に支払う能力がないと思った」が続きます。さらに深刻なのは、養育費を「現在も受け取っている」と答えた割合がわずか28.1%にとどまっていることです。

養育費確保のための制度がない日本
日本では、裁判所を通さずに協議離婚が可能です。そのため、養育費を支払うかどうかの交渉は、司法や裁判を介さず、家族や当事者間の問題として処理されてしまいます。結果として、養育費の取り決めをしなくても容易に離婚が成立し、取り決めをしていても実際に受け取れないケースも少なくありません。単純に比較はできませんが、諸外国と比べて養育費の受給率が低い背景には、こうした制度上の事情があると考えられます。
近年、民法が改正されましたが、養育費を支払わない父親の給与や財産を差し押さえることは、依然として難しい状況にあります。養育費の確保は母親による個別交渉や父親のモラルに大きく依存しているのが現状です。
一方で、他の先進国では養育費の支払いを確保するための制度が整っています。例えば、韓国では養育費の取り決めが義務付けられています。また、ドイツ・フランス・スウェーデン・フィンランド・韓国では、養育費は社会保障であり、公的機関の立て替え払い制度があります。さらに、アメリカ・韓国・イギリス・フランスでは、給与の差し押さえなど強制的な徴収が可能です。詳しくは、次の表をご覧ください。
| いわゆる立替払い制度 (公的機関の財政負担で、未払い養育費を養育費権利者に支払う制度) |
いわゆる強制徴収制度 (養育費支払義務者から強制的に徴収する制度) |
その他 | |
| ドイツ |
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| フランス |
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| スウェーデン |
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| フィンランド |
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| イギリス (イングランド及びウェールズ) |
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| 米国 (カリフォルニア州/ニューヨーク州) |
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| 韓国 |
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※4)法務省民事局「公的機関による養育費の履行の確保等に関する諸外国の制度例について」をもとにキッズドアが作成
働いても貧しい日本の母子世帯の現実
「全国ひとり親世帯等調査」(※3)によると、日本の母子世帯の平均世帯収入は373万円で、児童のいる世帯全体の平均収入813.5万円(※5)を大きく下回っています。さらに厚生労働省の「2022(令和4)年 国民生活基礎調査」(※6)では、ひとり親世帯の貧困率は44.5%に上り、OECD加盟国の中でもワースト水準に位置しています(※7)。
一方で、日本の母子世帯の86.3%が就業しており(※3)、その就業率は世界的に見ても高い水準です。それにもかかわらず、日本の母子世帯の貧困率が高い背景には、養育費未払いの問題が大きく影を落としていると考えられます。
実際に、キッズドア・ファミリーサポート事業に登録する母子世帯からは切実な声が寄せられています。
「もう3年ぐらい肉や魚を買っていません」
「もう1年米を買っていません」
「家では安いパンや麺だけです」
「子どもが“米を食べたい”と言っています」
昨今、「体験格差」が話題になっていますが、現実には体験活動どころか日々の食事すらままならない家庭があります。子ども達が安心して、健やかに育っていくためには、経済的安定は不可欠です。
養育費確保のために今私達ができること
こうした現状を踏まえると、まずは実態を正確に把握することが必要ではないでしょうか。公的機関が悉皆調査を行い、養育費の取り決め率や受給率だけではなく、養育費の確保が難しい要因、居所不明の父親の割合、適正な養育費の水準などを明らかにする必要があります。その上で、調査結果に基づいた制度の整備が求められます。
すでに日本でも、明石市や大阪市では養育費確保のための制度や立替払い制度が導入されています。こうした先行事例を全国に広げることは有効な選択肢となるでしょう。また、居所不明の父親については、マイナンバーの活用や税務署との連携によって所在を把握するなど、実効性のある仕組みが考えられます。
日本では、子どもを育てる責任は親にあり、養育費は子どもの当然の権利です。すべての親が責任を果たせるように、またすべての子どもがその権利を行使できるようにするためには、行政による支援不足や個人任せの現状を改め、制度として養育費を確保する仕組みが不可欠です。そして同時に、私たち一人ひとりが母子世帯の厳しい状況や養育費をめぐる問題に関心を持ち、制度改革を後押しする世論を高めていくことも重要です。
私たちは、これからも子どもをめぐる課題を社会に広く発信し、必要な支援を提言することで、子どもを取り巻く環境の改善へとつなげていく啓発活動を続けていきます。
参考データ
※1)法務省「養育費」
※2)裁判所「平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について」
※3)厚生労働省「令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」
※4)法務省民事局「公的機関による養育費の履行の確保等に 関する諸外国の制度例について」
※5)「児童のいる世帯」については「令和3年国民生活基礎調査」の平均所得金額
※6)厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査」
※7)「OECD Family Database」
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