スタッフレポート

子どもの貧困

制度があっても支援が届かない子ども達 ―― 高校生へのアウトリーチ活動が必要な理由

「困っている」という自覚がない子ども

日本には、経済的に困窮しているにもかかわらず、支援につながっていない子どもがいます。

これは、ある支援者から聞いた、高校生のケースです。

母子家庭で子どもは3人。母親はパートで働いていましたが、収入は生活保護基準を大きく下回っていました。家には十分な食べ物がなく、光熱費の滞納も続いていました。そのような状況でも母親は行政に頼ろうとはしませんでした。 過去に役所で冷たい対応を受けた経験が影響していたのか、あらゆる支援の申し出を拒み、福祉との接点を断ち続けていました。

一方、生徒本人には「困っている」という自覚がありませんでした。「うちはこういうものだ」と思い込んでいたのです。空腹は我慢し、友人に心配されても「大丈夫」と答える。本来なら受けられる支援があるのに、生徒自身が「困っている」という自覚を持っていないため、支援情報を自分で探すことも、助けを求めることもできません。

こうして、子どもの進学や将来の選択肢が、自分が知らないうちに狭められていく――そんなケースが、現実に起きています。

 

支援制度があっても届かない

冒頭のケースは、決して特別な話ではありません。なぜこれほど支援が届いていないのでしょうか。

日本には、経済的に困窮する世帯の子どもを支える様々な制度があります。多くの場合、「保護者が申請すること」「行政窓口に自らアクセスすること」「必要な条件を全て満たし、書類を揃えること」を前提に設計されています。つまり制度の側が、すでに一定の情報や心身と時間の余裕を持っている人を想定して作られているのです。

ところが現実には、その前提が成り立たない家庭が数多くあります。

「支援制度の存在自体を知らないという情報不足」に加え、冒頭で紹介したケースのような「過去に傷ついた経験から行政を避ける家庭」、そして「生活保護を受けるのは恥ずかしい」という羞恥心が壁になっているケース、様々な事情で窓口に出向くことに困難を抱えている家庭、日本語でのコミュニケーションに課題がある外国ルーツの子どもがいる家庭など、どれか一つでも壁があれば、従来の福祉の仕組みでは子どもに支援の手が届かなくなる恐れがあります。

内閣府の「令和3年 子供の生活状況調査の分析報告書」(※1)によると、全国の中学2年生とその保護者を対象に実施された本調査では、等価世帯収入が「中央値の2分の1未満」の世帯(概ね相対的貧困状態)にある世帯であるにもかかわらず、「就学支援」を利用したことがない割合は34.8%、「生活保護」を利用したことがない割合は91.3%、「児童扶養手当」を利用したことがない割合は50.0%にのぼります。
(補足:日本における「相対的貧困」は等価可処分所得が「中央値の2分の1未満」の世帯とされている)

図1.支援制度の利用状況(等価世帯収入が「中央値の2分の1未満」の場合)

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※1)内閣府「令和3年 子供の生活状況調査の分析 報告書」をもとにキッズドアが作成

この調査では、制度を利用していない理由も報告されていて、「制度の対象外だと思うから」に加え、「手続きがわからない」「制度を知らなかった」といった回答も多く挙げられています。 

図2.支援制度を利用していない理由(等価世帯収入が「中央値の 2 分の 1 未満」の場合)

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※1)内閣府「令和3年 子供の生活状況調査の分析 報告書」をもとにキッズドアが作成

つまり、制度があることと、支援が届くことは、まったく別の問題なのです。では、この「届かない」という問題に、どう向き合えばよいのでしょうか。

 

「こちらから出向く」支援のかたち

こうした状況に対応するため、近年重視されているのが「アウトリーチ活動」です。アウトリーチとは「手を伸ばす」という意味で、支援窓口で相談を待つのではなく、支援が届いていない人に対して、行政や支援団体の側から積極的に働きかけていく取り組みです。

2021年に始まった国の「重層的支援体制整備事業」でも、制度の狭間にいる人、支援が届いていない人などへ継続的な訪問支援等を行うために、「アウトリーチ」は重要な事業の一つとして位置づけられています(※2)

窓口で待つだけでは支援が届かない人がいる —— その認識が社会で広がっています。

 

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高校生世代にこそ「届けに行く支援」を

子どもの中でも、特に支援が届きにくいのが高校生世代です。

高校生は「あと数年」で進路を決めなければなりません。実際、こども家庭庁がまとめた資料(※3)によれば、生活保護受給世帯の大学等への進学率は上昇傾向にはあるものの、2022年度の進学率は42.4%にとどまっています。算出方法が違うので単純に比較はできませんが、文部科学省の調査による同年度の日本全体の進学率(83.8%)と比べると、大きな差があることは明らかです。時間の猶予がない高校生にとって、支援が1年遅れるだけで、進学やキャリアの可能性が閉ざされることもあります。

にもかかわらず、高校生世代は支援の網から漏れやすい状況です。その背景には、高校が義務教育ではないため、学校が家庭の状況を把握する機会が減るからです。また、アルバイトができる年齢であるため、「自分で何とかできる」と見られてしまうこともあります。

だからこそ高校生世代に必要なのは、待つ支援ではなく、届けにいく支援です。

キッズドアでは自治体からの委託を受け、高校へ直接出向くアウトリーチ活動を行っています。学校であれば、保護者を介さずに生徒と直接つながることができます。最初は警戒する生徒もいますが、何げない会話を丁寧に重ねていくことで、少しずつ信頼関係が築かれていきます。

実際に、大学進学を諦めていた生徒が給付型奨学金の情報を得て進学を実現した例や、高校中退を考えていた生徒が学習支援を受けて卒業できた例があります。また、家庭の困窮が明らかになり、適切な支援機関につながったケースも生まれています。

大切なのは、一人ひとりの状況に寄り添い、その子に合った支援を時間をかけて丁寧に探っていくことです。これまで行政や福祉の支援が届きにくかった生徒本人と直接つながれることこそ、アウトリーチの大きな強みです。

「知らなかった」で終わらせないために

経済的困難は、目に見えにくいことがあります。制服を着て、学校に通い、笑顔で過ごしている生徒の中にも、支援からこぼれ落ちている子が存在しています。支援が届いていない生徒の多くは、助けを求める方法を知らない子ども達です。

そのために、アウトリーチは多様な形で展開されています。学校での情報提供、地域での無料学習会、SNSやオンラインを活用した相談窓口、子ども本人に直接届く奨学金情報の案内など。共通しているのは、親を経由しなくても子ども自身が知り、選択できる環境をつくるという点です。

こうした取り組みを広げていくことが、これからの支援には欠かせません。今、求められているのは「支援を届けようとする社会」です。支援は「用意する」だけでは不十分です。届いてはじめて、支援になります。早期に支援が届くほど、子どもの可能性は広がります。

だからこそ、私達にもできることがあります。たとえば、こうした現実があることを知ること、支援制度や支援団体の活動を周りに伝えること、そして子どもに直接届く支援を応援することなどです。

見えていない困難を抱える子どもに、どう手を伸ばすのか。その問いは、私達一人ひとりに向けられています。

参考データ
※1)内閣府 「令和3年 子供の生活状況調査の分析 報告書
※2)厚生労働省 改正社会福祉法における「重層的支援体制整備事業」 資料
※3)こども家庭庁「こども・若者、子育て家庭を取り巻く状況について

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    • 学習支援を届けた生徒

      2,293

      2025年度の実績

    • 開催した学習会

      6,956

      2025年度の実績

    • 支援を届けた世帯数

      5,105世帯

      物資・情報等支援 2025年度実績

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