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"子どもの権利"が奪われるヤングケアラーという現実――家族の世話を平日平均4時間担う中学生も
病気の親に代わって、本来は大人が担うことが想定される毎日の炊事や洗濯を継続的に担っている子どもがいます。働きに出ている親に代わり、祖父母の介護や幼いきょうだいの世話を日常的に担っている子どももいます。
家族を思い、懸命に支えている子ども達ですが、その一方で、勉強する時間や友人と過ごす時間が制限されたり、進路選択や将来設計に影響を受けたりすることがあります。こうした、重い責任や世話を過度に担っている子ども達は、「ヤングケアラー」と呼ばれています。
ヤングケアラーとは
令和6年6月、「子ども・若者育成支援推進法」が改正(※1)され、ヤングケアラーは「家族の介護その他の日常生活上の世話を過度に行っていると認められる子ども・若者」と定義されました。また、「ヤングケアラーは、国や地方自治体が支援に努めるべき対象である」ことが明記されました。従来は「子ども」に焦点が当たりがちでしたが、この改正では進学や就職の選択など、自立に向けた重要な移行期にある18歳以上の「若者」も支援の対象として位置づけられました。
たとえば、次のような子ども達がヤングケアラーにあたる場合があります。
- 家族に代わって、料理・洗濯・掃除などの家事をしている
- 幼いきょうだいの食事・入浴・寝かしつけをしている
- 祖父母の見守りや介護をしている
- 病気や障害のある家族の身の回りの世話をしている
- 家族の通院に付き添っている
- 日本語が第一言語でない家族のために通訳をしている
ヤングケアラーは、特別な家庭だけに起こる問題ではありません。家族の病気・障害・介護、経済的な困難、保護者の長時間労働など、さまざまな事情が重なることで、子どもが家族の世話を過度に担う場合があります。
ヤングケアラーの実態
それでは、家族の世話を担っている子ども達は、実際にどれくらいの割合で存在するのでしょうか。厚生労働省の令和2年度の調査(※2)によると、「世話をしている家族の有無」について「いる」と答えた子どもの割合は、中学2年生で5.7%、全日制高校2年生で4.1%、定時制高校2年生相当で8.5%、通信制高校生で11.0%でした。小学6年生については6.5%という結果が、令和3年度に実施された調査(※3)で示されています。
図表1.「世話をしている家族の有無」

※2)厚生労働省「令和2年度 ヤングケアラーの実態に関する調査研究」(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社)ならびに ※3)厚生労働省「令和3年度 ヤングケアラーの実態に関する調査研究」(株式会社日本総合研究所)をもとにキッズドアが作成
ここで、世話の実態をより具体的に見るために、「世話をしている家族がいる中学2年生」の結果(※2)に着目すると、「世話をしている家族(複数回答)」で最も多かったのは「きょうだい(61.8%)」で、「父母(23.5%)」、「祖父母(14.7%)」が続きます。 また、「ほぼ毎日世話をしている」と答えた子どもは45.1%にのぼりました。世話に費やす時間は平日1日あたり平均約4時間(*無回答を除いた回答データの平均値)で、学校以外の時間の多くを家族の世話に充てている実態がうかがえます。なかには1日7時間以上世話をしている子どもも約1割(11.6%)いました。
図表2.(左)世話をしている家族がいる中学2年生の「世話をしている頻度」
図表3.(右)世話をしている家族がいる中学2年生の「平日1日あたりに世話に費やす時間」

※2)厚生労働省「令和2年度 ヤングケアラーの実態に関する調査研究」(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社)をもとにキッズドアが作成(いずれもn=319)
これらの数字は単なる統計ではありません。その一つひとつの背後に、家族を支えながら日々を過ごす子ども達の姿があります。次のパートでは、実際に出会った2つのケースを紹介します。
実際に出会った2人のヤングケアラーと「子どもの権利」
※プライバシー保護のため一部加工・編集しています。
1) 家族のために家事を担う子ども
この子どもと学習会で出会ったのは、中学3年生のときでした。母親、小学生のきょうだい、社会人のきょうだいとの4人暮らしのひとり親世帯で、 母親は仕事で家を空けることが多い家庭でした。
毎日食事をつくり、洗濯をし、小学生のきょうだいの宿題を見ることもありました。日常的な「役割」として決まっているので、母親が家にいる時でもその役割は変わることはありませんでした。高校受験を控えた時期でしたが、受験勉強と家事を並行して続けていました。
ある日の学習会で、「疲れてしまって、食べたくても食べられないことがある」と話してくれました。そんな時でも、家族の食事は用意していたといいます。
受験は無事に終わり、高校に進学しました。現在は社会人のきょうだいも少しずつ食事の用意を手伝うようになり、負担は改善しつつあります。しかし、受験を控えた大切な一年を、家事の責任を抱えながら過ごした事実は変わりません。

2) 行政手続きや通訳を担う子ども
学習会に通う高校1年生の子どもは、母親と2人で暮らしています。ひとり親世帯で、母親の第一言語は日本語ではないため、書類対応などに困難があります。
学校から配られるプリントや行政から届く書類について、この子どもは内容を母親に伝えるだけでなく、必要事項を理解し、記入・提出まで担っています。高校入学時の就学支援金等の申請も、手続きを進めたのはつい数か月前まで中学生だった本人でした。
また、ケースワーカーとのやり取りを担うこともあります。母親は日常会話はできますが、複雑な内容への対応が難しいためです。電話でのやり取りが中心となるなか、この子は双方の意図をくみ取りながら伝えています。
こうした役割は、いつから始まったのか定かではありません。本来であれば勉強や友人との時間に充てられる放課後が、その役割に使われています。
3) 子どもにとって当然保障されるべき権利
これら2つのケースは、単に負担が大きいというだけではありません。子どもが子どもとして過ごす時間や、自分の人生を選択する機会が守られているのかという、「子どもの権利(子どもにとって当然保障されるべき権利)」(※4)に関わる問題でもあります。
ヤングケアラーの子ども達は、家族を支えなければならないことで、自分自身の生活や成長に必要な時間を十分に持てなくなることがあります。その結果、学校生活を含む子ども自身の現在と将来に様々な影響があると考えられています。
子ども達に起きる影響と、見えにくさ
では、実際にどのような影響が出てしまうのでしょうか。具体的な影響について見ていきます。
1) 学びと学校生活への影響
1つ目は学習や学校生活に関連する影響です。
家事や家族の世話に時間を取られることで、宿題や課題に取り組む時間が十分に確保できず、学習に支障が生じることがあります。また、世話をしている家族がいる場合、いない場合に比べて、欠席・遅刻・早退の割合が高い傾向にあります。さらに、経済的な事情や時間的な制約から、塾や習い事に通えないことを悩む子どももおり、学力や学習機会に影響を与える可能性があります。そのほか、部活動や友人と過ごす時間が限られるので、学校では一人で過ごすようにするなど、人間関係への影響も考えられます。(※1、2)
2) 心身と進路への影響
2つ目は、心身の健康や進路への影響です。
日々の世話による負担から、「健康状態がよくない・あまりよくない」と感じたり、 「睡眠が十分に取れない」と回答したりする子どもがいます。そうした状況にありながら、「相談しても状況が変わるとは思わない」「家族のことのため話しにくい」「誰に相談するのがよいかわからない」といった思いから、相談やSOSを出すことをためらう場合もあります。(※2、3)
進路の面では、進学をあきらめたり、自宅から通える範囲の学校しか選べなかったりするケースもあります。家族の世話は18歳になって終わるとは限らず、進学や就職、一人暮らし、恋愛、結婚など、若者期のさまざまな選択にも影響を及ぼすことがあります。 (※2、5)
3) 表面化のしにくさと重なり合う課題
ヤングケアラーの問題は、家庭内のデリケートな問題であることから表面化しにくいといわれます。前述のように、家族のことを話すことへの恥ずかしさや不安から、相談やSOSをためらう子も少なくありません。学校では「しっかりした子」と受け止められ、その背景にある負担に周囲が気づけない場合もあります。(※6)
さらに、小さい頃から日常的に世話をしている子どもにとって、世話をすることは「当たり前のこと」になっています。そもそも「ヤングケアラー」という言葉を知らなければ、自分の状況が支援の対象になることに気づけません。
ヤングケアラーという言葉の認知度については、令和2年度の調査(※2)では「聞いたことはない」と答えた中高生が8割を超えていました。しかし、国が令和4年度から6年度までを「集中取組期間」と位置づけ認知度向上に取り組んだ結果、令和7年度の調査(※5)では大きな改善が見られました。「聞いたことはない」と回答した割合は、全日制高校2年生で16.8%、通信制高校生で14.3%まで減少しています。一方で、小学6年生では依然として53.6%が「聞いたことはない」と回答しており、年齢層や学校種別によって認知度に差がある点が課題として残されています。
図表4.ヤングケアラーの認知度 「聞いたことはない」と答えた子どもの割合

※2)厚生労働省「令和2年度 ヤングケアラーの実態に関する調査研究」(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社)ならびに ※5)こども家庭庁「令和7年度 ヤングケアラーの実態把握等に関する調査研究」(有限責任監査法人トーマツ)をもとにキッズドアが作成
また、ヤングケアラーの問題は、単独で存在するものではありません。家族の病気や障害、介護負担、経済的困難、言語上の課題など、複数の困難が重なり合う中で生じることが少なくありません。
そのため、ヤングケアラー支援を考える際には、子ども本人だけでなく、家庭全体の状況や背景にある課題を包括的に捉えることが重要です。
子どもを支えるためにできること
家族の世話を担う子ども達が、学びや遊び、友人との時間、そして将来について考える時間を取り戻すために、いま私達にできることは何でしょうか。
それは、ヤングケアラーの存在に気づき、声をかけ、必要な支援につなげていくことです。そして、子どもが一人で抱え込まなくてよい社会をつくることです。
1) 気づいたときの関わり方
令和7年度の調査(※5)では、「周囲の大人や友人が、困っているようにみえる子どもに声をかけることは大切だと思うか」を尋ねたところ、小中高生いずれの学年・年代においても「そう思う」(「とてもそう思う」と「ややそう思う」の合計)という回答が9割近く見られました。
このことから、子ども自身も、周囲が声をかけることの大切さを広く認識していることがうかがえます。同調査報告書(※5)では、「大人の側からは、声をかけるべきか否かを悩むケースもあると考えられるが、困っている時には声をかけてほしいと思っている子どもが多くいる可能性がある」と述べられています。周囲の大人が小さな変化に気づき、「何か困っていることはない?」と声をかけることには大きな意義があると言えます。
ただし、大切なのは、本人の気持ちを尊重しながら関わり、学校の先生やスクールソーシャルワーカー、スクールカウンセラーなど、信頼できる大人や機関につなげていくことです。一方で、本人の同意なく話を広げることは、個人情報が広まり、かえって本人を傷つけてしまう可能性があります。
そのため、ヤングケアラーについて正しく理解するとともに、気づいた際にどのように対応すべきかという点も含めた啓発が求められています。(※1、5)
2) 必要な支援
しかし、個人の気づきや声かけだけでは限界があります。子どもと家庭を継続的に支えるためには、支援の仕組みそのものを整えていくことも欠かせません。
ヤングケアラー支援では、子ども本人にだけ「相談して」と求めるのではなく、学校・地域・福祉・民間団体などが連携し、家庭全体を支えることが重要です。
具体的には、次のような支援が求められています。
- 学校での支援 : 教職員による早期発見の仕組みづくり、遅刻・欠席の背景の丁寧な聞き取り、スクールソーシャルワーカーとの連携
- 地域での支援 : 民生委員・児童委員、子ども食堂、地域の居場所など、子どもと家庭を見守るネットワーク
- 福祉的支援 : 介護サービスや家事支援の適切な利用による子どもの負担軽減
- 学習支援・居場所支援 : 無料の学習支援による学びの保障、学校でも家でもない「第三の居場所」の提供
この問題を「その家庭だけの事情」として見過ごすのではなく、学校、地域、行政、NPO、企業、そして市民一人ひとりがつながりながら支援の輪を広げていくことが求められています。
適切な環境と温かい関わりがあれば、子ども達は社会性を育み、自分の未来を描き直すことができます。すべての子どもが、家庭の状況にかかわらず、子どもらしく過ごし、自分の未来を描ける社会を実現することは、私達、社会全体の課題です。
【子どもの社会課題レポート】
- 知らないことが不利になる ―― 進学情報格差から考える教育格差
- 「誰が自分を心配してくれるんだろう」――孤立が生む心の貧困。相談先がない子ども達
- 困窮家庭の子どもが卒業を諦める理由 ―― 心身の「限界」で高校に行けなくなる子ども達
- 制度の外に置かれる「実質ひとり親家庭」——離婚が成立するまで支援が届かない子ども達
- 制度があっても支援が届かない子ども達 ―― 高校生へのアウトリーチ活動が必要な理由
- 挨拶を教えてもらえなかった子ども達 —— 貧困が奪う「当たり前」の力
- 生活保護を受けながら大学進学や浪人ができない子ども達 ——「世帯分離」という障壁
- 貧困バッシングの先で傷つく子ども達――「助けて」と言うことが責められる社会
- 家計の事情で部活動を諦める子ども達——拡大するスポーツ体験格差
- 養育費の受け取り率はわずか28%——養育費未払いが招く母子世帯の深刻な貧困
- 粉ミルクも生理用品も買えない —— 生活必需品が足りない母子世帯の悲鳴
- 模試を受けられない子ども達——経済格差が生む教育格差
【子どもを取り巻く課題】
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参考データ
※1) こども家庭庁「ヤングケアラー支援の強化に係る法改正の経緯・施行について(法改正の経緯・概要/現状と課題/法改正に係る施行通知の概要)」
※2)厚生労働省「令和2年度 ヤングケアラーの実態に関する調査研究」(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社)
※3)厚生労働省「令和3年度 ヤングケアラーの実態に関する調査研究」(株式会社日本総合研究所)
※4)こども家庭庁「こどもの権利の普及啓発」
※5)こども家庭庁「令和7年度 ヤングケアラーの実態把握等に関する調査研究」(有限責任監査法人トーマツ)
※6)政府広報オンライン「『ヤングケアラー』を知っていますか?」
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