スタッフレポート
子どもの貧困
ひとり親世帯の貧困
制度の外に置かれる「実質ひとり親家庭」——離婚が成立するまで支援が届かない子ども達
支援制度が届きにくい「実質ひとり親家庭」とは
「離婚訴訟が長引いて、6年間裁判が結審せず、公的支援が受けられない状態です。」
これは、キッズドアに寄せられた声のひとつです。そしてこの声は、決して特別なケースではありません。
離婚を前提とした別居やDVからの避難などで、実態としてひとりの親で子育てをしている家庭は「実質ひとり親家庭」と呼ばれます。法律上はまだ両親世帯であるため、ひとり親家庭を対象とした多くの支援制度の対象外となっています。
2022年、国はこの状況を改善するため、制度の運用見直しを全国の自治体に通知しました(※1)。離婚が成立していなくても、生活実態が確認できれば児童扶養手当を受給できる可能性を明確にしたのです。ところが現実には、支援を受けられないまま困窮している家庭が後を絶ちません。
制度上は可能であるにもかかわらず、なぜ支援は止まってしまうのでしょうか。
「児童扶養手当」と、国が示した運用見直し
「児童扶養手当」は、ひとり親家庭等の生活の安定と自立の促進のために支給される手当です。ひとり親家庭にとって、生活を支える“基盤”となる制度です。 それは単なる現金給付ではなく、いわば『国からひとり親家庭として認められた証明』という役割も持っているからです。就労・自立支援系の制度、公共料金の減免などには児童扶養手当の受給が条件となっているものが多く、様々なひとり親支援制度への入り口であるといえます。
この児童扶養手当の受給対象は「父又は母と生計を同じくしていない児童」となっています。具体的には、父母が離婚している、どちらかが亡くなっている、どちらかに遺棄されている(監護義務を放棄し生活費の負担もしない)といった国が定める状態にあてはまる子どもが対象です(※2、3)。こうした制度設計のなかで、別居はしているが離婚が成立していない家庭の子どもは、法律上は両親世帯の子どもとなるため、対象外とされてきました。
近年、離婚調停や訴訟が長期化するケースが増える中、支援を受けられないまま深刻な困窮状態に陥る家庭が増加しました(※4)。こうした実態を受けて、前述の通り2022年3月、厚生労働省子ども家庭局長が全国の自治体に対し運用の見直しを求める通知(※1)をしました。この通知の中で、離婚が成立していない・婚姻が続いている状態でも「遺棄」と認定できる余地を明確にし、生活実態を踏まえて児童扶養手当の支給対象と判断できることを示しました。
―引用―
遺棄の認定に当たっては、離婚調停や審判の係争中で婚姻関係が継続している場合であっても、父又は母による現実の扶養を期待することができないと判断される場合には、遺棄に該当するものとするなど、事実関係を総合的に勘案のうえ判断されたい。
厚生労働省 「児童扶養手当遺棄の認定基準について」(※1) より
これにより、実質ひとり親家庭が児童扶養手当を受給できる道筋が、制度上は整いました。
通知は届いても変わらない現場の運用
しかし、冒頭で触れたとおり、受給の可能性が広がったにもかかわらず、「公的支援が受けられない」という家庭からの声が依然として届いています。
背景には、支給の可否を判断する基準が各自治体の裁量に委ねられているという構造があります。
自治体の窓口担当者は収入・養育費・交流状況をもとに判断しますが、支給後に不正受給と見なされるリスクを避けるため、運用は慎重になりがちです。そのため、「別居が一時的なものではないか?」「今後生活費を受け取る可能性がないか?」といった将来の状況もあわせて慎重に確認し、保守的な運用をする傾向にあります。その結果として、「別居して一年以上経過していること」が条件に加えられたり、弁護士や民生委員による証拠書類の提出を求められたりするケースも生まれています。
つまり、国が示した方針と現場での運用の間に、ズレが生じているのです。結果として、離婚を決意し「これからひとりで子どもを育てていかなければならない」――と不安が最も大きい時期に、支援が届かないのです。

支援が受けられないまま、生活は困窮していく
- 「訴訟が長引いていて、法的なひとり親ではありません。ひとり親控除や県営市営の居住資格がないので困っています」
- 「離婚成立前の別居と聞くと一時的なことのように感じると思います。しかし現実は6年間裁判が結審せず、公的支援が受けられない状態です」
キッズドアの子育て家庭支援事業「キッズドア・ファミリーサポート」にご登録いただいている家庭の中には、生活実態はひとり親家庭であるにもかかわらず、様々な支援から取り残された状態のままの生活を余儀なくされている家庭が多く存在します。
実質ひとり親家庭の親は、ひとり分の収入で家庭の生活費・住居費を支払います。別居を始める場合は引越し費用がかかります。また、離婚や養育費を決める裁判にかかる弁護士費用・書類取得費などが必要な家庭もあります。
離婚成立前であれば別居中の生活費として婚姻費用を請求する権利がありますが、調停・審判がない段階ではその請求には強制力がありません。
調停・裁判が長期化した場合、十分な支援を受けられないまま離婚に向けた諸費用で支出が増え、貯金を切り崩しながら生活し、やがて困窮に陥っていく――そのようなケースが少なくありません。
「別居中・離婚前のひとり親家庭」実態調査プロジェクトチームによる2020年のアンケート調査(※4)では、「別居中・離婚前のひとり親家庭」において、就労年収が200万円未満の割合が71.8%にのぼると報告されています。これに対し、厚生労働省の「令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」(※5)では、一般的な「母子世帯」における同割合は47.4%とされています。
両調査は実施時期や調査対象などが異なるため、数値を直接的に比較することはできませんが、別居をしたが離婚が成立していない家庭において、より厳しい経済状況に置かれている家庭が相対的に多い可能性が示唆されます。
◆ 「別居中・離婚前のひとり親家庭」と「一般的な母子世帯」における年収200万円未満の割合の比較

※4) 図1:「別居中・離婚前のひとり親家庭」実態調査プロジェクトチーム「ノーセーフティネットひとり親家庭を救え! 別居中・離婚前のひとり親家庭アンケート調査報告書」をもとにキッズドアが作成
※5) 図2:こども家庭庁「令和3年度 全国ひとり親世帯等調査」をもとにキッズドアが作成
このことから、離婚が成立していないという“制度上の状態”が、経済的な不利をさらに強めている可能性があると考えられます。
実質ひとり親家庭の困難は、経済的な事情に留まりません。調停・裁判に向けた対応をする時間的な拘束や心理的ストレスなど、多くの負担がかかります。同様に、急激な生活水準の低下や親の不安定などにより子どもへの負担も大きくなります(※6)。
求められる支援のあり方
前述の通り「実質ひとり親世帯」に対する支援の広がりは十分ではありませんが、一部の自治体では公的支援の事例が生まれています。
例えば、東京都中野区では「離婚調停中での実質ひとり親家庭への金銭給付」として、離婚が成立していなくても、必要書類を提示して手続きをすることで、一括で支援金を受け取ることができる制度があります(※7)。
この制度が実現した背景には、いくつもの工夫があります。これは、自治体が独自事業として区の資金を使用しており、区の裁量が大きいこと、そして、将来の不確定要素に関係なく「児童扶養手当の申請ができない間の支給」ができるよう設計されていることにより実現しています。
中野区での取り組みは、国の基準に縛られず、自治体の判断のみで実質ひとり親家庭への支援を可能にした先進的な事例となります。こうした事例を参考にして、各自治体でも制度の充実が進むことが期待されます。
また、キッズドア・ファミリーサポートでも、法的な支援の対象から漏れてしまっている家庭も支援の対象としています。実質ひとり親家庭であっても、事情書等の書類を提出することにより支援が受け取れるようになっており、子育てを頑張る全国の家庭を応援しています。

キッズドアから食料支援を受けた「別居中の家庭」から届いた感想ハガキ
国や自治体ではリスクを取れない領域にいる家庭も支援できることが、キッズドアのような民間支援団体が果たす重要な役割といえます。しかし、民間の支援には限界があります。
離婚が「成立」するまでの間、子どもたちは本当に支援を待ち続けなければならないのでしょうか。
まずは、この現実があることを知ること。それが、支援のあり方を変えていくための第一歩になるはずです。
参考データ
※1)厚生労働省「児童扶養手当遺棄の認定基準について」(令和4年3月18日)
※2)厚生労働省「児童扶養手当法」(昭和36年11月29日法律第238号)
※3)厚生労働省「児童扶養手当の遺棄の認定基準について」(昭和55年6月20日)
※4)「別居中・離婚前のひとり親家庭」実態調査プロジェクトチーム「ノーセーフティネットひとり親家庭を救え! 別居中・離婚前のひとり親家庭アンケート調査報告書」(2020年11月11日)
※5)こども家庭庁「令和3年度 全国ひとり親世帯等調査」
※6)公益社団法人商事法務研究会「未成年期に父母の別居・離婚を経験した子に関する質的調査研究報告書」
※7)中野区役所「中野区実質ひとり親家庭への子育て支援給付事業」
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