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子どもの貧困
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「誰が自分を心配してくれるんだろう」 ――孤立が生む心の貧困。相談先がない子ども達
見えないまま抱え込まれる悩み
「家にいるのが嫌だ」――これは、キッズドアの居場所型学習会で出会った、不登校気味の子どもが、雑談の最中、ふと口にした言葉でした。
「何かあったの?」と尋ねると、その子どもは少し間を置いてから、「お母さんに『いつ学校に行くの?』『勉強しなさい』って言われるから」と話してくれました。
その裏には、毎日の繰り返しの中で積み重なった、自分自身への無力感や、登校したくてもできない現状への苦しさが滲んでいました。
このような話をしてくれるようになったのは、出会ってから半年以上が経ってからのことでした。それまでの間、その子は誰にも頼ることなく、一人で思いを抱えていました。周囲からは、大きなトラブルを起こすわけでもなく、ただ静かに過ごしている子どもに見えていたかもしれません。
しかし実際には、その「何もなさそうに見える状態」の中にこそ、言葉にならない困難が潜んでいます。誰かに相談できる環境がない、親や先生には話しづらい、あるいはそもそも「相談する」という発想自体が浮かばない――このような状況は、特に生活困窮世帯の子どもにおいて決して珍しいものではありません。
では、実際にどれくらいの子どもが、こうした「相談できない」状況に置かれているのでしょうか。
統計から見る「相談できない子ども」の実態
この問いに対する手がかりが、内閣府の調査データの中に示されています。
全国の中学2年生及びその保護者を対象として、令和3年に実施された「子供の生活状況調査の分析 報告書」(※1)によると、「困っていることや悩みごとがあるとき、相談できると思う人」について、「だれにも相談できない、相談しない」と回答した割合は、全体では8.9%でした。これは、およそ11人に1人にあたります。
しかし実際には、この数字がすべての子どもに均等に分布しているわけではありません。収入が低い世帯ではその割合は高まり、等価世帯収入が「中央値の2分の1未満」 の世帯(概ね相対的貧困状態)では12.8%に達し、さらに「ひとり親世帯」では15.4%と、およそ6人に1人にのぼっています。
(補足:日本における「相対的貧困」は等価可処分所得が「中央値の2分の1未満」の世帯とされている)
図表1 : 「あなたに困っていることや悩みごとがあるとき、あなたが相談できると思う人はだれですか。」(複数回答)の問いに、「だれにも相談できない、相談したくない」を選択した人の割合
(a) 等価世帯収入の水準別

(b) 世帯の状況別

※1)a,b共に、内閣府「令和3年 子供の生活状況調査の分析 報告書」をもとにキッズドアが作成
つまり、「相談できない子ども」は、どの家庭にも一定数いるのではなく、経済的な困窮度が高いとみられるほど、その割合が高くなる傾向にあります。このデータが示しているのは、経済的な困窮が、「頼れる人とのつながりの乏しさ」という関係性の困窮にもつながっているという事実です。子どもの貧困を「経済的な不足」だけで捉えていては、見えてこない問題がここにあります。
相談先が失われる構造
では、なぜ生活困窮世帯の子どもは、相談できる関係を持ちにくいのでしょうか。その背景には、複数の要因が複雑に絡み合っています。
(1)学校内のコミュニティからの離脱
例えば、ある中学生のケースです。その子どもは、部活動には所属しておらず、学校が終わるとまっすぐ家に帰ります。運動が苦手だからでも、興味がないからでもありません。部活動に必要な費用を負担してもらうことは難しいと、本人が理解しているからです。
これについても、前出の内閣府による「子供の生活状況調査の分析 報告書」(※1)で調査が行われています。 実際に部活動等に参加していない理由について、等価世帯収入の水準別にみると、「中央値の2分の1未満」の概ね相対的貧困世帯では、「費用がかかるから」が19.2%、「家の事情(家族の世話、家事など)があるから」が9.0%で、他の世帯と比べて高くなっています。一方で、「塾や習い事が忙しいから」は6.4%で、他の世帯と比べて低くなっています。さらに世帯の状況別にみると、「ひとり親世帯」では、「費用がかかるから」が17.7%で「ふたり親世帯」と比べて高く、「塾や習い事が忙しいから」は3.8%で低くなっています。
図表2 : 「地域のスポーツクラブや文化クラブ、学校の部活動に参加していますか。」の問いに、「参加していない」と答えた方の「部活動等に参加していない理由」について(複数回答)
(a) 等価世帯収入の水準別

(b) 世帯の状況別

※1)a,b共に、内閣府「令和3年 子供の生活状況調査の分析 報告書」をもとにキッズドアが作成
もし部活動に参加していれば、練習の合間に雑談をし、時には悩みをこぼしたり、担任の先生以外にも顧問の先生と関係を築くこともできたかもしれません。しかし、部活動に所属していないことによって、学校の中で自然に生まれるはずだった「より多くの人との関係性」は失われるのです。
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(2)学校外のコミュニティからの離脱
同様の離脱は、学校外でも起きています。 世帯年収が低く、ダブルワークで家計を支えている家庭では、親の帰宅時間は遅く、家でゆっくり話をする時間はほとんどありません。毎日の生活を送ることで精一杯となり、地域の行事や学校外での体験活動に子どもを参加させる余裕もなくなります。
公益社団法人チャンス・フォー・チルドレンの「子どもの『体験格差』実態調査」(※2)によると、直近一年間で学校外の体験活動に参加しなかった小学生の割合は、世帯年収600万円以上の世帯は11.3%、300万円未満の世帯は29.9%と、2.6倍もの差があります。世帯年収300万円未満の家庭の子どもの約3人に1人が、1年を通じて学校外の体験活動を何も行っていないのです。
図表3 : 世帯年収の水準別 直近1年間で学校外の体験がない子ども(小学1年生~6年生)の割合

※2)公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン「子どもの『体験格差』実態調査最終報告書」をもとにキッズドアが作成
その結果、その子どもにとって「親以外の大人」と関わる機会は極端に少なくなります。学校外のコミュニティに所属していれば出会うはずだった大人―― 地域の人、習い事の先生、他の保護者といった存在と関係を築くスタートラインにすら、そもそも立てていないのです。関係の選択肢が増えないまま成長していくことは、「誰に頼るか」という発想そのものの形成にも影響します。
(3)高校生になって加わる、労働という制約
さらに、高校生になると状況は一層厳しさを増します。それは、高校生の就労(アルバイト)率が高いという実態です。アルバイトは、社会経験を積むという意味で、大人へと成長していく過程において重要な役割を果たす側面もあります。しかし一方で、家庭の経済状況が厳しいことを理由に、働かざるを得ない高校生も少なくありません。
平成28年度東京都「子供の生活実態調査報告書」(※3)によると、16歳から17歳の調査対象者(4自治体)において、就労している割合は16.8%にのぼっています。そのうち、生活困難度別に「家族に生活費を渡しているか」を見ると、困窮層では10.5%が家計にお金を入れており、一般層の6.9%と比較すると、およそ1.5倍以上の割合となっています。
図表4 : 生活困難度別 家族に生活費を渡している割合(就労している 16-17 歳)

※3)東京都「東京都子供の生活実態調査報告書【小中高校生等調査】」をもとにキッズドアが作成
注)本調査報告書(※3 )では、子どもの生活困難の状況を次の3要素で評価しています。 ①低所得、②家計の逼迫、③子供の体験や所有物の欠如。これらのうち2つ以上に該当する場合を「困窮層」、いずれか1つに該当する場合を「周辺層」、いずれの要素にも該当しない場合を「一般層」と区分しています。
このような状況にある高校生は、部活動に参加する余裕がなく、学校・家庭・アルバイト先を往復する生活になりがちです。その結果、それ以外のコミュニティに属する機会が失われ、大人との関わりも限定的なものになっていきます。たとえ周囲に大人が存在していたとしても、生活に余裕がない状況では、日々の労働に精一杯となり、自分の悩みを打ち明ける余裕や機会を持つことは難しいといえます。
部活動という居場所がなく、家庭では会話の時間がなく、学校外の体験機会も乏しく、放課後や休日は労働に費やされる。このように一つひとつは小さな断絶であっても、それが積み重なることで、子どもは次第に「誰にもつながらない状態」へと置かれていきます。
そして気が付けば、困ったときに思い浮かぶ大人が一人もいないという状況が生まれます。相談先が「ない」のではなく、これまでの生活の中で、その環境そのものが「形成されていない」のです。
このように、生活困窮がもたらす影響は、単なる経済的制約にとどまらず、子どもの人間関係の構築機会を奪い、結果として「相談という行動」そのものを成立させにくくしているといえます。そして、大人との接点を持てないまま育つことは、それ自体が「相談する」という行為へのハードルを高めていくことにもつながります。
「相談する」という行為のハードル
では、なぜ「相談する」という行為自体のハードルが上がるのでしょうか。それを理解するためには、「相談する」という行為にどのようなプロセスや前提が必要なのかを、改めて考える必要があります。
相談とは、単に誰かに話すことではありません。 まず、自分の中にある不安や違和感に気づき、それを整理し、言葉にする必要があります。その上で、「誰に話すか」を考え、実際に行動に移します。
しかし、これらのプロセスは、経験なしに自然とできるものではありません。誰かに話して受け止めてもらった経験がなければ、「話してもいい」という発想自体が生まれにくいのです。
さらに、実際に相談しても、「まずは身近な大人に相談してください」と言われてしまうケースもあります。本来、その身近な大人がいないために相談しているにもかかわらず、その前提が共有されていないのです。
このような経験が重なると、子どもは「誰にもわかってもらえない」と感じるようになります。そして、次第に相談すること自体をあきらめていきます。
その結果、悩みは誰にも気づかれないまま内側に蓄積され、外からは「問題のない子ども」として見え続けます。しかし実際には、助けを求める手段や選択肢そのものが失われている状態にあるのです。
私たちにできること
では、このような状況に対して、私たちにできることは何でしょうか。
ここで難しいのは、こうした困難が外見からはほとんど見えないという点です。例えば、スマートフォンの所有状況を見ても、そのことがうかがえます。東京都の調査(※4)では16歳から17歳の93.3%がスマートフォンを所持しており、困窮層でも95.0%と、ほとんど差がありません。背景には、食費や交際費を切り詰めながら、通信費を自ら負担しているケースもあると考えられます。
このように、生活必需品となったスマートフォンの所持状況だけでは、経済的な困難を見分けることはできません。だからこそ、周囲の大人には「特に問題なく生活している子ども」に見えやすく、その分困難はより一層見過ごされやすくなります。
だとすれば、私たちがまずできることは、何か特別なきっかけを待つことではないはずです。特別な支援の前に、まず子どもに関心を向けることです。
たとえば、「どうかした?」と声をかけること。たった一言ですが、その言葉は、「自分を気にかけてくれる大人がいる」という実感につながります。
また、「保護者に相談してみてください」「どこに遊びに行きましたか?」といった何気ない言葉の中に、自分たちの「当たり前」が含まれていないかを問い直すことも重要です。その前提が当てはまらない子どもにとって、その言葉は沈黙を生むきっかけにもなり得ます。
子どもが相談できるようになるためには、「話してもよい」と感じられる関係性の積み重ねが不可欠です。そして、その関係は特別な場だけでなく、日常の中で育まれるものです。
見えにくい貧困とは、関係の中からこぼれ落ちていく状態ともいえます。だからこそ、目の前の子どもに関心を向け続けること、小さな違和感を見逃さないことが大切です。その積み重ねこそが、「誰が自分を心配してくれるんだろう」と一人で抱え込む子どもを減らすための、関係づくりの第一歩になるのです。
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参考データ
※1) 内閣府「令和3年 子供の生活状況調査の分析 報告書」2.2
※2) 公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン「子どもの『体験格差』実態調査最終報告書」
※3) 東京都「東京都子供の生活実態調査報告書【小中高校生等調査】」第4部6(平成28年度調査)
※4) 東京都「『子供の生活実態調査』詳細分析報告書」第5部4
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