スタッフレポート
子どもの貧困
教育格差
知らないことが不利になる ―― 進学情報格差から考える教育格差
今そこにある情報格差
「大学選びを手伝って欲しいです」
「進学情報を調べていたら、すごく時間がかかってしまい大変です」
経済的に厳しい家庭の高校生への学習支援の現場で、こうした声は決して珍しいものではありません。
今、進学を目指す高校生が学習塾に通うことは “当たり前” になっています。しかしその一方で、経済的な理由から塾に通えない高校生も、確実に存在しています。そして、その子ども達を支える社会的な受け皿は、まだ十分に整っていません。
塾に通えないことは、単に学習の機会を失うだけではありません。
志望校の入試制度、大学の学習内容、奨学金情報 ――
進路選択に必要な「情報そのもの」に触れる機会が限られてしまうのです。高校のみから得られる受験情報でも進学は可能ですが、それだけでは多くの情報を取りこぼしてしまいます。
それは、情報がないまま入試に挑まざるを得ないという、見過ごされがちな不利を生み出しています。

「情報にアクセスできないこと」が生む、見えにくい不利
塾に通う高校生は、授業や面談を通じて志望校や教材選びについて支援を受けることができます。一方で、塾に通わない生徒は、それらをすべて自分で調べ、比較し、判断しなければなりません。進学情報はインターネットで得られると思われがちですが、実際には「何を調べればよいのか分からない」という段階で立ち止まってしまう生徒も少なくありません。
また、「学校の先生に聞けばよいのでは」と思うかもしれません。
しかし、高校3年生の年末になってからキッズドアに通い始めたある生徒は、次のように語っています。
担任の先生に、すべての科目を相談できるわけではないですし、先生が志望校すべての受験制度を知っているわけではありません。
学校には、模試の過去問や、新課程に対応する予想問題はありませんでした。キッズドアに通って、初めて存在を知った資料もありました。
高3の秋になると、参考書選びに時間と労力がかかって大変だと感じるようになりました。塾に通っていなかった私は、教材を試して選ぶことができず、友人に話を聞きながら、本屋で何度も確認していました。
受験は「情報戦」とも言われる現在、塾に通う生徒にとって当たり前に得られる情報や教材も、そうでない生徒にとっては、探さなければ存在すら分からないものになります。
進学情報の格差とは、単なる知識量の違いではなく、時間と労力をかけなければ同じスタートラインに立てないという『負担の差』でもあるのです。
「学ぶ」と「情報収集」のトレードオフ
キッズドアに通う高校生を対象に実施したアンケート(2026年2月実施、回答数80名)からは、情報格差の実態が見えてきます。
まず、キッズドアに通う前「進路・進学情報を十分に持っていたか」という問いに対しては、「かなり不足していた」約28%、「少し不足していた」約48%を合わせると、7割以上の生徒が情報不足を感じていたと回答しました。
図1.キッズドアに通う前の進路・進学情報の所有状況について

※キッズドア「進学情報についてのアンケート」をもとに作成(n=78)
さらに、「1週間のうち進学情報の収集にかける時間」については、「週2時間以上」約6%、「週1~2時間」約15%、「週30分〜1時間」 約18%、を合わせると、およそ4割の生徒が1週間に30分以上を情報収集に費やしていると回答しました。
図2.1週間のうち進学情報の収集にかける時間の状況について

※キッズドア「進学情報についてのアンケート」をもとに作成(n=78)
情報を集め、吟味する時間は、すべての受験生が負担しなければなりません。ただ、塾に通っていない受験生は、その時間が他の受験生よりも多くの時間と労力を必要としています。そのため、本来は学習に充てるはずの時間を使って、情報収集を行う必要があるという状況が生まれています。
これは、受験情報を得るために、学力向上のための時間を削らざるを得ないという、もう一つの不利を意味します。
つまり、「学ぶ時間」と「情報を得る時間」の間でトレードオフが生じているのです。情報は無料で手に入るものではなく、時間というコストを伴います。そしてそのコストを、限られた時間の中で負担しているのが、塾に通えない経済的に厳しい世帯の高校生達です。
情報が届けば、選択肢は広がる
こうした状況を受け、キッズドアでは「高校生情報室」を設置し、高校生と保護者に向けた進学情報支援を行っています。
たとえば、
- LINEによる定期的な情報配信 (学習法、大学情報、奨学金、イベントなど)
- 進学・キャリアイベントの実施
- 情報冊子「夢をかなえる進路Guide」の提供
といった取り組みを通じて、進路選択に必要な情報を届けています。
前述のアンケートでは、「キッズドアに通っている現在、進路・進学情報を十分に持っているか」についても尋ねています。
「かなり不足している」「少し不足している」はいずれも0%、「少し持っている」57%、「十分持っている」43%と、通う前と比べて大幅な改善が見られました。
情報が届くことで、生徒たちはようやく進路の選択肢を知り、比較し、自分で選ぶことができるようになります。
それは単なる受験情報の提供ではありません。これまで見えていなかった未来の可能性を、広げていくものでもあるのです。
進学情報格差を減らすために
進路選択は、本来すべての子どもにとって開かれているべきものです。それにもかかわらず現実には、「知らなかった」という理由だけで、不利になったり、知らぬまま失った選択肢が存在しています。
近年、大学入試の仕組みはますます多様化・複雑化しています。高校生は日々の学習に加えて、受験構造を理解し自分に合った受験方式・受験校を選ぶ必要があります。それだけで、相応の時間と労力がかかります。だからこそ、学校の外で情報を届け、伴走してくれる存在が、今の高校生には欠かせません。
家庭の経済状況によって生まれる、個人の努力では埋められない進学情報格差。それをなくすために、特に必要なのは次の2つです。
- 進学情報を確実に届ける仕組みをつくること
- 複雑な情報を誰にでも理解できる形で伝えること
言い換えれば、「知らないことが不利になる構造」を変えていくことです。子どもたちが経済的なハンディキャップに左右されることなく、自分の望む進路を選べる社会。そして、必要な情報が必要な人に届く社会。その当たり前を実現することが、いま私たち社会に問われています。
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