スタッフレポート
子どもの貧困
困窮家庭の子どもが卒業を諦める理由 ―― 心身の「限界」で高校に行けなくなる子ども達
なぜ困窮家庭の子どもは高校を中退しやすいのか。ある生徒のエピソードを手がかりに、その背景にある構造的な要因を探っていきます。
あと1回休んだら、退学
「やばい、欠時(けつじ)オーバーになりそう。どうしよう。」
高校生世代を対象にした居場所型学習会でよく耳にする「欠時オーバー」という言葉。これは、高校が定めた年間の欠席上限時間を超えることを指します。欠席日数だけでなく、遅刻や早退が積み重なるとカウントされることもあり、もし、超えてしまった場合は留年もしくは卒業延期、状況によっては退学に追い込まれる生徒もいます。
Aさんとは、彼女が高校1年生の春に出会いました。母子家庭で三姉妹の長女として育ち、中学時代に不登校を経験した彼女にとって、高校は再出発の場でした。「勉強と部活動を両立させて、将来は大学に行きたい」。そう語る目は、やる気に満ちあふれていました。
しかし彼女は、中学卒業と同時にアルバイトを始めていました。それはお小遣い稼ぎのためではなく、通学定期代や、スマートフォン代、食費など必要最低限の生活費を自分で賄うためでした。朝6時に家を出て学校へ行き、放課後は22時までアルバイト。帰宅後には家族のために家事をこなし、深夜にようやく就寝する。こうした過酷な生活は、15歳の子どもが背負うにはあまりに重く、心身を確実に消耗させていきました。
その影響もあり、楽しみにしていた部活動も、1年生の夏休みに退部せざるを得なくなりました。なんとか2年生に進級したものの、蓄積した疲労は体調不良として表れ、遅刻や欠席は次第に増えていきました。
そして2年生の2学期、ついに「欠時オーバー」まであと1回。今度休めば留年か退学かという、崖っぷちの状況に追い込まれてしまいました。
「生徒」と「稼ぎ手」の二重生活を強いられる困窮世帯の高校生
こうしたAさんの状況は、決して特殊な事例ではありません。東京都の調査報告書(※1)によれば、世帯の生活困難度が高いほど、高校生の就労率や、週に20時間を超える長時間労働に従事する割合が高くなる傾向が示されています。
図表1.収入を伴う仕事(学生アルバイトを含む)をしている割合:生活困難度別、男女別

※1) 東京都受託事業 首都大学東京 子ども・若者貧困研究センター「『子供の生活実態調査』詳細分析報告書」をもとにキッズドアが作成
注)本調査報告書(※1)では、子どもの生活困難の状況を次の3要素で評価しています。 ①低所得、②家計の逼迫、③子供の体験や所有物の欠如。これらのうち2つ以上に該当する場合を「困窮層」、いずれか1つに該当する場合を「周辺層」、いずれの要素にも該当しない場合を「一般層」と区分しています。(図表1~3共通)
図表2.週労働時間の分布:生活困難度別(高校に在籍する 16-17 歳で、収入を伴う仕事をしている者・男女別)

※1) 東京都受託事業 首都大学東京 子ども・若者貧困研究センター「『子供の生活実態調査』詳細分析報告書」をもとにキッズドアが作成(「仕事をしていない」「無回答」は非表示)
また、子どもが自身のアルバイト代から家族に生活費を渡している割合も、一般世帯と比べて高いことが分かっています。同報告書が指摘するように、彼らは未成年でありながら「生徒」と「稼ぎ手」という二つの役割を担わざるを得ない状況に置かれています。
図表3.生活費を同居又は別居の家族に渡している割合(16-17 歳):生活困難度別、男女別

※1) 東京都受託事業 首都大学東京 子ども・若者貧困研究センター「『子供の生活実態調査』詳細分析報告書」をもとにキッズドアが作成
注)本調査報告書(※1)において、「困窮層の女子は家族に生活費を渡している割合は 6.7%であり、一般層の女子との間に有意な違いはないが、衣食等の生活費を自分で賄っている可能性もあり、さらなる分析が必要である」と示されています。
さらに、経済的困窮家庭の高校生世代を対象としたキッズドアの独自アンケート(※4)でも、約4割がアルバイトを経験していることが明らかになっています。そのうち、普段のアルバイト時間については「週10時間以上」が5割を占めており、さらに長期休暇中ではないにもかかわらず、7%が週20時間以上働いている実態も確認されています。
このアンケートでは、「学習時間が確保できない」「疲労により学校での勉強に支障が出る」といった、アルバイトに関する否定的な声も寄せられています。「経済的な理由で高校生がアルバイトをしなくてもよい社会になってほしい」といった切実な意見も見られました。
「テスト勉強をして良い成績を取りたい」「部活動に打ち込みたい」「放課後は友達と遊びたい」――こうした高校生として当たり前の願いの前に、常に「生活維持」という重い現実が立ちはだかります。明日の試験のために机に向かいたくても、シフトを入れなければ来月の定期代すら払えない。そうした厳しい選択を日々迫られる中で、子ども達は少しずつ学業や将来への希望を失っていきます。
そして、「なぜ自分だけが、こんな苦しい思いをしてまで学校へ通わなければならないのか」という強い虚無感が積み重なり、学業への意欲はじわじわと失われていくのです。

個人の問題にすり替えられる中退と、その先にあるもの
深刻なのは、こうした「稼ぎ手」としての疲弊が、しばしば「本人の怠惰」や「家庭の問題」として片付けられてしまう点にあります。朝起きられず遅刻してしまったり、授業中に居眠りしてしまったり、提出物を出せなかったりするのは、意欲がないのではなく、体が限界を迎えているサインである可能性があります。
こうした背景にある構造的な貧困に気づかれないまま、子ども達は教室での居場所を失い、中退という選択肢へ追い詰められていくのです。
経済的困窮は学業の継続を困難にするだけではありません。その先には、子ども達にとって危険な選択肢が待ち受けています。SNS上には「短期間で高収入」を謳う、いわゆる「闇バイト」や「パパ活」の募集が溢れています。真面目にアルバイトをしても家計が回らない、進学費用がどうしても準備できない、そうした状況の中で「短期間で高収入」という言葉に惹きつけられてしまうこと自体は、不自然なことではありません。子ども達は、その危険性を理解しながらも、目の前の過酷な現実から目を背けるために、手を伸ばしてしまうのです。(※2、※3)
しかし、一度足を踏み外せば、「退学」や「逮捕」といったかたちで、その後の人生に大きな影響が及びます。本来保護されるべき子ども達が、「生活苦」を理由に犯罪の加害者や被害者へと転じてしまう――。この「負の連鎖」の現実は、個人の問題として見て見ぬふりをするにはあまりにも残酷ではないでしょうか。
「頑張れ」の前に「お疲れ様」を
支援の現場にいると、こうした残酷な現実を前に無力感に襲われることも少なくありません。一方で、子ども達が孤独や不安に襲われたとき、頼れる居場所があれば踏みとどまることができるケースもあります。
その後、Aさんは「欠時オーバーまであと一回」という極限の状況の中で、熱が出ても無理を押して登校し、休み時間には保健室で体を休めながら、出席日数を死守しました。その結果、彼女はなんとか3年生に進級し、その後、無事に卒業までたどり着くことができました。
高校3年間、Aさんは多忙な日々の合間を縫って、居場所支援の拠点に顔を見せてくれていました。そこで私達が徹していたのは、張り詰めた彼女の心と体を休めてもらうことです。日々のストレスを吐き出してもらい、頑張っている彼女を労い、応援する。机に向かう学習支援は、彼女の心が少しだけ軽くなったその次の段階です。まずは、彼女が稼ぎ手ではなく、一人の高校生に戻れる場所であること。それを守ることが、私達にできる精一杯の支援でした。
Aさんの進級や卒業は、何よりも彼女自身の努力によるものです。同時に、学校やアルバイト先の同僚、私達団体スタッフなど、周囲の大人に頼る力があったからこそ成し得たものです。
社会全体で子どもを見守る空気を取り戻す
本来、子ども達がこれほどまでに心身をすり減らさなければ教育を継続できない現状を放置してはならないはずです。学費だけでなく、生活費も含めた給付型奨学金の拡充や、高校在籍時からのアウトリーチ(※5)、中退後の切れ目のない支援など、子ども達を支えるための制度を整えていかなければなりません。
しかし同時に、社会全体で子どもを見守る空気を取り戻すことが必要なのではないでしょうか。
Aさんのように、早い段階で地域の居場所支援に繋がる機会を得られる子どもは、決して多くありません。だからこそ、わざわざ「居場所」という特別な支援の場を作らなくても、日々の挨拶やちょっとした雑談、学習ボランティアなどを通して、日頃から子ども達を気にかけ、見守り、支える大人を1人でも増やすことが大切です。そうしたささいな関わりが、子ども達にとって自然な居場所になっていくのです。
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参考データ
※1) 東京都受託事業 首都大学東京 子ども・若者貧困研究センター「『子供の生活実態調査』詳細分析報告書」第5部 第1章「高校生の就労」 (平成30年3月)
※2) 日本財団ジャーナル「『闇バイトの何が悪いの?』 ~日本財団18歳意識調査アンケートより~」
※3) OurPlanet-TV NPO法人D×P「闇バイト検討する若者の8割『生活費・税金支払いのため』〜背景に若者の困窮」
※4)認定NPO法人キッズドア「高校生世代アンケート 集計結果」(2023年)
※5)「アウトリーチ」とは、「手を伸ばす」という意味で、支援者側から学校に直接出向き、学習支援や居場所支援に取り組むこと。
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